『マイルス自叙伝』は英語で読もう!
日本語マイルス
『マイルスに訊け!』で、著者・中山康樹氏は、こう述べている。
「刑事コロンボの声は、小池朝雄でなければならない。その声は、なにしろ本人であるピーター・フォークの声よりもコロンボらしい。刑事コロンボという人格を決定づけたのは、少なくとも日本においては、小池朝雄氏の声だったと思う。
だからこそ、中山康樹氏は、
マイルス・デイヴィスに関して、身の程知らずにも、そして畏れ多くも、そのようなことを目指していた。つまり「日本語のマイルス・デイヴィス」をいかにして作り上げるか、(後略)
と考え、一人称をこれまでの「私」や「僕」ではなく、「オレ」にした。
そして、日本語でありながらも、まるでマイルスが日本語で述懐しているかのようなマイルス自伝を翻訳した。
この中山氏の「マイルス・デイヴィスの日本語化」の試みは成功したと思う。
少なくとも私はそう思っている。
なにしろ、翻訳版が出版されたときは、読みまくりまくりまくりまくりだったからね。
そして、翻訳者の中山氏自身も、
ともあれ、「マイルスの日本語化」は、手前味噌ながら、自叙伝の翻訳において完成をみたと考えている
と『マイルスに訊け!』のまえがきで綴っているとおり、私も、まるでマイルスが自分に「まあ聞け」と語りかけているような思いで夢中になって読んだものだ。
英語マイルス
しかし、それには飽き足らず、学生時代は『マイルス自伝』の原書も何度も読んだ。
なぜ、原書か?
それは写真。
当時JICC出版局から出版された日本語の翻訳版には、版権の関係や高額な写真使用料のため一切掲載されていなかったのだ。
洋書には、ビリー・ホリデイとのツーショットの写真も載ってるし、煙草くわえたカッコええ若い頃のロリンズの写真も載っている。
だから丸善か三省堂か忘れたけど、書店の洋書コーナーで、写真入りのペーパーバックを発見したときは狂喜乱舞したものだ。
なにしろ、背表紙の笑っているマイルスのポートレイトは、なんだか「ジャズの帝王」というよりは、親しげな黒人のオッちゃんのよう。
カリスマではない等身大の姿のマイルス像が垣間見えるこの写真が大きく表4(背表紙)に配されているだけでも、この洋書は「買い!」だと思った。
学生にとっては、ちょっと高い値段に感じたけれども、財布の中を気にすることなくレジに直行。
購入後はむさぼるように読んだ。
それほど英語は得意じゃなかったんだけれども、とにかく使われている単語が簡単でセンテンスも短いので、サクサク読める。
もっとも、「シット」とか「マザーファッカー」が多いので、それが何を意味し、誰を指すのかなどは、ある程度ジャズの知識がないと、まったく正反対な解釈をしてしまうこともあるので、英語力があっても、最低限なジャズ知識がないと楽しめないかもしれない。
アメリカに行ったときなど、ブックストア店頭のワゴンで割引で原書が売られていたりもしたので、かれこれ原書は3バージョン持ってます(笑)。
ハードカバーで立派な上製本は保存用。
読み返し用のペーパーバックは、もうかなりボロボロになってしまった。
そして、同じペーパーバックでもバージョン違いのもの。
外装は違えども、中身は一緒なので、マイルスの生の英語に接したい人は、現時点で一番手に入りやすいバージョンを買って読めばよいと思う。
読めばワクワク、ゾクゾクの連続。
楽しい読書時間を過ごせることでしょう。
もちろん、BGMはマイルスで。
個人的には『1969マイルス』が良いと思っている。
英語が苦手、英語で読むのが面倒くさい。
いえいえ、私も英語が苦手だし、英語を読むのが面倒な人なのですが、『マイルス自伝』だけは例外。
面白くスリリングでサクサク読めるのです。
このニュアンス、スピード感を日本語に違和感なく置き換えた中山氏の力量とマイルス愛は凄いとあらためて思うのです。
記:2017/09/04