ミント・ジャズ/大橋美加
爽やかペギー・リー
スピーカーから、優しく暖かい風がふわりと吹いてきた。
まさに最初の一音から、そんな感じだった。
自慢じゃないけど、といって自慢するけど(笑)、私、吉祥寺の「メグ」というジャズ喫茶の改装後の一番客なんですよ。
そうそう、このジャズ喫茶最近改装したんですが、“ジャズの音源を聞かせる店”から、“生演奏を聴かせることに特化した店”へと思いきったチェンジを施し、昔のジャズ喫茶特有のイメージ、“暗い・狭い・汚い”が見事に取り払われてしまいました。
で、改装直後、昼番のレコード係の方が大工さんに、
「お店の改装、すべて終了でーす」
と声をかけられて、
「どうもありがとうございました、お疲れさまでしたー」
とお辞儀をしているところに、まさにその最中に、偶然私が店内にスルリと入ったのですね。
新築の家のように、ペンキや新しい木の匂いのする「メグ」の店内で、最初にかかったのが、これ。大橋美加の『ミント・ジャズ』。
飾られたジャケットからは、“どうせイージー・リスニング的な軽いジャズもどきだろう”という先入観が働いたが、さにあらず。
一曲目からふわりと風のように軽く優しいギターとヴォーカル。
低音がズーンとくるベースの重低音。
この絶妙な音の配合にやられました。
ケイコ・リーや綾戸智絵のようなヘビーで、いかにも“ジャッズッをっ歌ってっまっすっ!!”的な気合いの入ったヴォーカルではなく、あくまで淡々と微妙なニュアンスを大切にした清涼感溢れる歌唱が良い。
あ、べつにケイコ・リーや綾戸おばちゃんを非難しているわけではなくて、あくまで、彼女とは対極な表現スタイルだと言いたいだけなんだけどね。
バックはギターとベースのみというシンプルな編成だが、ギターの高内春彦は様々なアプローチで演奏しているので、まったく飽きることがない。
香川裕史のベースも、下へ下へとズーンとくるので、しかもとても伸びのある低音なので、ベース好きにはたまらない音色だ。
ペギー・リーの愛唱歌を歌うというアルバム・コンセプトなだけに《ジョニー・ギター》や《ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム》といったお馴染みの曲が目白押し。
大橋は、2002年の1月に81歳で亡くなった彼女の一周忌に、愛唄曲を集めたアルバムを作ろうと思いついたのだという。
ペギー・リーの歌い方も、かなり淡々とした中に味わいを感じるものがあるが、大橋美加の歌唱も、丹念にペギー・リーのテイスト受け継いでいる。
いわゆる、コテコテな“いかにもなジャズヴォーカル” なテイストとはかけ離れたヴォーカルだが、この清涼感、爽やかさ、暖かさ、心地よさは特筆ものだ。
ミント・ジャズ。
ああ、なんて、ぴったりなネーミングなんだろう。
記:2004/01/10
album data
MINT JAZZ (JAZZBANK/P.J.L.)
- 大橋美加
1.That's All
2.Do I Love You?
3.Smile
4.Johnny Guitar
5.You Stepped Out Of A Dream
6.I Just Want To Dance All Night
7.Mr.Wonderful
8.Where Can I Go Without You?
9.Love Letters
10.La La Lu
大橋美加 (vo)
高内春彦 (g)
香川裕史(b)
2003/01/20 & 21