ロンドン・コレクション vol.3/セロニアス・モンク

   

静かで独特な肌触り

モンクの最後のレコーディングの作品『ザ・ロンドン・コレクション Vol.3』。

「最後の作品」とはいえ、晩年の作品ではない。

セロニアス・モンクの生涯」にも書いたが、彼はこの作品を録音した11年後に亡くなった。

しかし、この録音以降、ほとんど人前でピアノを弾くことがなくなり、自宅でもピアノに向かわなかったのだそうだ。

つまり、この作品を残した後、ヘンな言い方だが、モンクは「ゆっくりと死んでいった」のではないのだろうか。

『ロンドン・コレクション Vol.3』ジャケットを見てみる。

目をつぶり、陶酔の表情のモンクが大きくトリミングされている。

おそらくピアノを弾いている時の顔のアップなのだろう。

最後の録音だということを知っている私にとって、そして、この録音を最後に“ ゆっくり死んでいった”という事実を知る私にとっては、妙な先入観が働く。

眠りに入るモンク。

魂が徐々に肉体を離れ、少しずつ眠りに入ると同時に、少しずつモンクの音楽が封印されてゆく前兆のようなもの……。

実際、演奏は見事なのだが、往年の彼のピアノのような表情が感じられないのだ。

ソロでの演奏においては、“モンク”というプログラムが施された自動演奏のピアノの音を聴いているようだ。

トリオでの演奏は、アート・ブレイキーといい、アル・マッキボンといい、淡々とサポートに徹している。

躍動感が無いわけではない。

しかし、特にベースの音が顕著だが、リズム楽器の音が随分と引っ込んだ感じで、遠くから聴こえてくるような気がする。

全体的に、非常にクールダウンされたトーンのピアノとリズム。

このひんやりとした肌触りは一体なんなのだろう?

そして、この肌触りは決して不快ではなく、ある種、大理石の冷たい表面に肌を触れたときのような冷たい心地よさなのだ。

じわりとした小さな高揚感もある。

もしかしたら、私が感じる飄々としたヨソヨソしさは、最初から我々聴衆に向けられて発せられた音ではないからなのかもしれない。

モンクは静かに自分と語っていたのかもしれない。

筆舌に尽くしがたい《ザ・マン・アイ・ラブ》の境地といったら……。

記:2002/11/07

album data

THE LONDON COLECTION vol.3 (Black Lion)
- Thelonious Monk

1.Trinkle Tinkle (take 2)
2.The Man I Love
3.Something In Blue
4.Introspection (take 1)
5.Trinkle Tinkle (take 1)
6.Clepuscule With Nellie (take 3)
7.Nutty (take 1)
8.Introspection (take 3)
9.Hackensack (take 1)
10.Evidence (take 1)
11.Chordially (improvisation)

Thelonious Monk (p)
All McKibbon (b)
Art Blakey (ds)

1971/11/15
Chappell Studios,London

関連記事

>>セロニアス・モンクの生涯

 - ジャズ