ムーズ/ザ・スリー・サウンズ

   

油田のように沸きあがる

寺島靖国氏のレトリックを拝借しちゃおう。

“油田のように沸きあがるベース”。

寺島さん、すいません。

これは、デビュー作の『辛口ジャズノート』で使われていたたエディ・ジョーンズのベースの比喩なのです。

覚えてらっしゃいますでしょうか?

ご紹介されていたアルバムは、ミルト・ジャクソンの『オパス・デ・ジャズ』です。

巻頭の“ベースで聴くアルバム”を集めたコーナーのところです。

“油田のように沸きあがるベース”。

いい表現だよなぁ、いつか真似して使ってみようと待ち構えていました(笑)。

轟音ではなくて、あくまでも、地の底から沸々と湧き上がる重たく湯気のたつような低音。

とても素敵な表現でした。

いきなり話が変わりますが、ザ・スリー・サウンズの『ムーズ』にはいっている《タミーズ・ブリーズ》のベースが好きなんですよ、私は。

アンドリュー・シンプキンズの奏でるベースが、油田のように地の底から沸きあがるような低音なんです。

ゆっくりと柔らかくて包み込むような感じで。

柔らかなラテンリズムです。

シンプルな反復パターンを、もうそれこそ油田のように地の底から湧き上がるように奏でています。

ベースの反復。

気持ちいいじゃありませんか。

同じパターン、というかリフをベースが心地よく反復しています。

この反復の上に乗っかるピアノの和音も心地よい。

ペダルトーンといって、ベースは根っこの音(ルート)を変えないんだけども、この上に乗るピアノ和音だけが変化してゆく。

この響き、たとえば、《オン・グリーン・ドルフィン・ストリート》の最初の8小節を思い出してもらえるとまさにそうなんだけど、ウワモノのメロディが飛翔しようとしているときに、グイッと地に足のついたベースがメロディを引っ張る感じがして、そして、移り変わるコードのカラーをベースのルートが押しとどめるような効果があって、非常に心地の良い響きとなるのです。

スリー・サウンズの演奏は、とりとめもない感じ、移ろいゆく穏やかで心地よい気分が永続的に続く、まるで、午後のまどろみの境地というべき心地よさ。

この《タミーズ・ブリーズ》が収録されている『ムーズ』は、2色刷りの多いブルーノートにしては珍しく4色刷りのこのジャケット。

“えくすたしぃ~”な表情でアップで映っているのは、オーナーのアルフレッド・ライオンの奥様。

お金のかかる4色刷りに、自分の奥さんを出演させちゃったりで、アルフレッド・ライオンのこのアルバムに対しての意気込みが窺えます。

しかし、個人的には、なんだかブルーノートらしくないジャケットだなと思います。

なんか、ムード音楽チックなジャケットで(あっ、だからムーズなんだ)。

しかし、油田のように湧き出る低音のベースを取りとめもなく聞きながらジャケットを眺めていると、うん、このサウンドにはこのジャケットしかないよなと思えてくるから不思議なもんです。

個人的には、スリーサウンズの中では一番の愛聴盤ですね。

記:2003/12/21

album data

MOODS (Blue Note)
- The Three Sounds

1.Love For Sale
2.Things Ain't What They Used To Be
3.On Green Dolphin Street
4.Blue Bells
5.I'll Darlin'
6.I'm Beginning To See The Light
7.Tammy's Breeze
8.Sandu

Gene Harris (p)
Andrew Simpkins (b)
Bill Dowdy (ds)

1960/06/28

 - ジャズ