モザイク/アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズ

   

ショーター初の音楽監督作品

ウェイン・ショーターが在籍していたジャズ・メッセンジャーズのアルバムの中では、個人的には一番のお気に入りのアルバムだ。

アレンジやアンサンブルの統制がとれておりため、音楽的にはかなり充実しているし、ジャケットもなかなかカッコいいしね。

特に左上にまとめられたタイポグラフィが秀逸で、文字配列から色のバランスまで、申し分ないデザインだ。

音楽的な充実度を感じられるのは、ウェイン・ショーターが始めて全面的に音楽監督としての腕をふるったことも大きな要因だろう。

もちろん、このアルバムの前から、ショーターは音楽監督的な立場をとってはいたが、役割分担が曖昧だったようで、アート・ブレイキー親分から「全面的にお前にまかせる」と言われたのが、このアルバム、『モザイク』からだったようだ。

そして、この時期から、ステージ上のメンバー紹介でも、テナーサックス奏者であることと同時に「ミュージカル・ディレクター」という一言も添えてブレイキー親分はショーターのことを紹介するようになったのだそうだ。

『モザイク』というアルバムは、モード奏法を全面的に取り入れつつも、何の違和感もなくジャズ・メッセンジャーズの音楽になってしまっているところが、いいよね。

シダー・ウォルトンの「やっつけ仕事」

タイトル曲の《モザイク》の作曲者は、当時のメッセンジャーズにピアニストとして在籍していたシダー・ウォルトン。

彼は、音楽監督として張り切っていたショーターから、「斬新なハーモニーの曲を書いてきてね」と宿題を出された。

しかし、彼は、ショーターから注文を出されていたことをすっかり忘れてしまっていたようで、リハーサルの日に「やべっ!」と気がついたようだ。

そして慌てて、近所のカフェで5分で「テキトー」になんとかデッチあげた曲が《モザイク》。

やっつけ仕事だったのね……。

シダー自身も、さすがに「やっつけ仕事」だという自覚はあったようで、ショーターや、ブルーノートの社長、アルフレッド・ライオンからは、「お前、なにテキトーな曲書いてきてんだよ」と怒られるんじゃないかとビクビクしていたようだ。

なんだか、まるで休み時間に大慌てで忘れた宿題を仕上げた小学生みたいだ。

しかし、おそるおそる提出した《モザイク》をメンバーで演奏した時のショーターの反応は、「いいねぇ〜」。

さらに、プロデューサーでもあるライオンの反応は「次のアルバムのタイトル曲にしよう」。

一番驚いたのはシダー自身だったようだ。

タイトルの由来は、ショーターから「斬新なハーモニーの曲を書け」と言われたことから、「メロディもハーモニーも斬新でモザイクみたいでしょ?だから《モザイク》というタイトルでどうでしょ?」と言ったところ、これまた反応は「いいねぇ〜」。

本当は、急いで仕上げた曲なので、音楽理論を無視して、機械的にメロディと和音を並べただけというのが真相のようだが、さぞかしシダー・ウォルトンはヒヤヒヤしたことだろう。

「5分で書いたやっつけ仕事でーす」とは、まさか言い出せずじまいで、そのままアルバムの目玉曲になってしまったのだから。

しかし、5分で書いたやっつけ仕事だろうが、テキトーに音符を並べただけであろうが、良いものは良いのだ。

大事なのは、良い曲、良い演奏に仕上がったという結果なのだから。

重厚かつ統制の取れたアンサンブル

《モザイク》のイントロは、いつ聴いても「さあ、これから勢いあふれる凄い演奏が始まるぞ!」という期待が膨らむし、張り切ってアドリブの先陣を切るショーター隊長のテナーサックスは、いつ聞いても男前で惚れ惚れする。

さらに、カーティス・フラーのトロンボーンが効いているよね。

ジャズ・メッセンジャーズは、彼のトロンボーンが加わることで、アンサンブルが、より肉厚になり、ブレイキー自身もサウンドが重厚になったことで、チャレンジしたいことが増え、これまで以上にドラマーとしての腕を振るえるようになったという。

重厚かつ統制の取れたアンサンブルは、いつ聴いても素晴らしい。

『モザイク』は、新しい響きを獲得したジャズ・メッセンジャーズの傑作であると同時に、ウェイン・ショーターのアレンジセンスとテナーサックスが光る一枚でもあるのだ。

記:2015/06/15

album data

MOSAIC (Blue Note)
- Art Blakey & The Jazz Messangers

1.Mosaic
2.Down Under
3.Children Of The Night
4.Arabia
5.Crisis

Art Blakey (ds)
Freddie Hubbard (tp)
Curtis Fuller (tb)
Wayne Shorter (ts)
Cedar Walton (p)
Jymie Merritt (b)

1961/10/21

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