マイ・フェア・レディ/シェリー・マン

   

初心者向けピアノトリオの代表的名盤の100枚、いや50枚、いや、もしかしたら25枚ぐらいの中にはランク・インするであろう、シェリー・マンの代表作『マイ・フェアレディ』。

言わずと知れた、クラシックの世界でも巨匠クラスなアンドレ・プレヴィンの「ピアノ名盤」でもある。

彼のドライブするピアノがリズミックで心地よく、さらに、映画のフラッシュバックシーンのように、めくるめく移り変わるシーンが、巧みに音楽的風景に転換されたかのように、映像なしの音風景が最後まで小気味よく、かつ楽しくまとめられている。

しかし、そうそう、これよく見れば(よく見なくてもだけど)、リーダーは、ドラムのシェリー・マンなんだよね。

アンドレ・プレヴィンのアルバムだと思って聴いている人もいると思うけど、では、なぜ、シェリー・マンなのか?!

コタエは、彼の柔軟なドラムにあり。

ドライブ感はあるにせよ、コキコキとした硬さは否めないプレヴィンのピアノを柔らかくほぐす効果をシェリー・マンは担っている、と私は考える。

そう、柔らかなクッションであり、チキンカレーにおけるヨーグルトであり、スペアリブにおけるオレンジなのだ。

クッション・ヨーグルト・オレンジなシェリー・マンのドラムは、もちろん主役のピアノを邪魔せずに鼓舞し、エッジの効きすぎたところを柔らかく引き締める。

かといって、まったくもって影のサポートに徹しているというわけでもなく、きちんとした存在感もたたえ、かつ主役に花を持たせ、リーダーとしての貫録も忘れない。

名手ならではの技と音に対する巧みな距離の取り方ではある。

というわけで、いまいちど、『マイ・フェアレディ』のシェリー・マンのドラムを中心にアルバムの演奏を追いかけてみよう。

こまやかな工夫がいくつも発見できると同時に、ドラムだけを耳が追いかけても、まったく疲れないというところもミソ。

その理由は、おそらくは手数の問題なのかもしれない。

つまり、シェリー・マンの場合、フィルインやオカズのパターンが、たとえばマックス・ローチなどに比べると、明らかに少ない。

しかし少ない手数、つまりシンプルなドラミングで演奏に生命を与え続けることができる素晴らしさを彼は持っているのだ。

特に、シェリー・マンのブラッシュワークに関しては、かのジャック・ディジョネットも絶賛したというほどの職人芸。

ぜひ、このアルバムが「耳タコ」な人は、ピアノの音よりもドラムの音中心に追いかけてみて欲しい。

あっと言う間に聴き終えてしまう収録時間の短いアルバムではあるが、短い時間の中には聴きどころがまだまだたくさん控えている。

記:2009/02/16

album data

MY FAIR LADY (Contemporary)
- Shelly Manne

1.Get Me The Church On Time
2.On The Street Where You Live
3.I've Grown Accustomed To Her Face
4.Wouldn't Be Loverly
5.Ascot Gavote
6.Show Me
7.With A Little Bit Of Luck
8.I Could Have Danced All Night

Shelly Manne (p)
Andre Previn (b)
Leroy Vinnegar (ds)

1956/08/17(Los Angels)

 - ジャズ