バラードとブルースの夜/マッコイ・タイナー
ガンガン鍵盤を叩くだけがマッコイではない
『バラードとブルースの夜』は、コルトレーンのグループに参加する前のマッコイ・タイナーのピアノ・トリオだ。
コルトレーン・カルテットで、ガンガンとモーダルな和音を叩きつけるような奏法とは違う、別なマッコイの側面を知ることが出来る。
インパクトよりは、流麗さ。
自然に流れるようなプレイは、コルトレーンでのマッコイのプレイに聴き慣れた人からしてみると、マッコイ・タイナーらしくないと最初は感じるのだろうが、このアルバムをよく聴けば、マッコイ・タイナーのピアノは、じつは様々な引き出しがあり、コルトレーンとの演奏は、その引き出しの中のダイナミックでパワフルな面を拡大強調していたに過ぎないということが理解出来るのではないかと思う。
さながら、コワモテの俳優が、善人役を演じた作品を見たときに、格別な味わいを見出すような感じなのかもしれない。
抑制されたタッチの魅力
たしかに、コルトレーン・カルテットでの演奏に慣れた耳には、かなり抑揚を抑え込んだタッチに聴こえるが、その抑制されたピアノの中には、数多くのニュアンスがこめられていることを聴き逃してはならない。
特に、なんの変哲もないような《サテン・ドール》のような演奏にこそ、マッコイ・タイナーというピアニストの、もうひとつの側面が出ていると思う。
自然体で飽きないアドリブ
シンプルだが飽きのこないアドリブ。
繊細なタッチと、空間を優しく構築する気配りも忘れない。
メロディアスで歌うようなフレーズがピアノから紡ぎだされているのだ。
肩の力を抜き(あるいは指の力を抜き?)、自然体の境地で奏でるマッコイのピアノは、ガツン!としたインパクトやアタック感を失うかわりに、聴き手の心をマッサージするかのように染みてくる音を獲得することに成功している。
どこまでも、のびのびとしていて、おおらかなピアノ。
スタンダードからモンクナンバーまで。
演奏時間も短めなものが多いので、ショートエッセイを次から次へとめくるような愉しみも味わえる。
繰り返しの鑑賞に十分耐えうる安定したピアノトリオをお望みの貴兄には、この1枚!
記:2011/04/07
album data
NIGHTS OF BALLADS & BLUES (Impulse)
- McCoy Tyner
1.Satin Doll
2.We'll Be Together Again
3.'Round Midnight
4.For Heaven's Sake
5.Star Eyes
6.Blue Monk
7.Groove Waltz
8.Days Of Wine And Roses
McCoy Tyner (p)
Steve Davis (b)
Lex Humphries (ds)
1963/03/04