たそがれのヴェニス/モダン・ジャズ・カルテット
映画と抜群の相性
モダン・ジャズ・カルテット(以下、MJQ)といえば、『コンコルド』や『ジャンゴ』、『ラスト・コンサート』などが代表作に挙げられることが多い。
もちろん、それには異論がない。
しかし、本当にMJQのサウンドコンセプトを理解し、なおかつ、そのMJQというグループの表現に魅了された人は、『たそがれのヴェニス』に行きつくんじゃないかと思っている。
ロジェ・バディム監督による『大運河』の映画音楽をMJQが手掛けた名盤という触れ込み。
そして、「映画音楽とジャズを見事に融合させた記念作」という触れ込みとして認知されている名盤だが、しかし、MJQというユニットとしての特徴が映画音楽というフォーマットと最初から親和性の高いものだったということも知っておきたい。
つまり、
・緊密なグループサウンド
・ノリノリになり過ぎない、抑制されたノリ
・ほのかに漂う涼やかな哀愁、
これら一貫したグループ・コンセプト(ジョン・ルイスのコンセプトでもある)が、無理なく映画の世界に融合している。
ジャズのエネルギー感と柔軟さを削ぐことなく、これらを知的にコントロールしようとする企み、このMJQの方針は、まさに的を射ていた。
つまり、瞬間的な勢いと閃きに頼りすぎるコンボ(グループ)ほど、活動期間が短く、結局のところMJQがジャズの中では最長寿のバンドとなっているのだ。
ジャズは即興だ、即興命だ!アレンジなんてクソくらえ!アンサンブルなんて二の次さ!
この考えは間違ってはいないと思う。
しかし、ジャズ独特の即興性を大事にしつつも、決して「過信はしない」「即興という手段におぼれない」というMJQのクールなまなざしが、結局は多くのファンを獲得し、グループの寿命を長く保てたことはいうまでもない。
アンサンブルのバランスの良さ、心地よい透明感、どこまでも美しい音世界。
これは1度や2度聴くだけでは分からないかもしれない。
たくさんジャズを聴いて、たまに聴き直す。
また、多くのジャズを耳にして、思い出したように聴き直す。
「ジャズ耳」が育てば育つほど、MJQというグループを理解し、一聴、クラシック的にも響くこの『たそがれのヴェニス』を好きになってゆく自分を発見することだろう。
即興だけではジャズではない。
アンサンブルだけでもジャズにならない。
この水と油にも見える相矛盾する両者のバランス配合に長けていた音楽家に、まずはマイルス・デイヴィスという存在が挙げられるだろうが、MJQ、というより、このグループのリーダーで音楽監督でもあるジョン・ルイスの存在も忘れてはならない。
記:2008/05/06
album data
NO SUN IN VENICE(たそがれのヴェニス) (Atlantic)
- THE MODERN JAZZ QUARTET
1.The Golden Striker(ゴールデン・ストライカー)
2.One Never Knows(ひとしれず)
3.The Rose Truc(ローズ・トルク)
4.Cortege(行列)
5.Venice(ヴェニス)
6.Three Windows(三つの窓)
THE MODERN JAZZ QUARTET
Milt Jackson (vib)
John Lewis (p)
Percy Heath (b)
Connie Kay (ds)
1957/04/04