ノット・トゥー・レイト/ノラ・ジョーンズ
2021/02/19
キャラ立ちしないが、気楽に聴けるアルバム
彼女の過渡期的作品だと思う。
あるいは、クオリティ高めのデモテープというべきか。
それだけ、プライベート感の強い内容ではあるが、逆にアルバムという“商品”としての弱さは否めない。
そこをどう受け取るかで、このアルバムの評価は真っ二つに分かれてしまうことだろう。
グラミー賞全8部門を総なめにしたデビューアルバム『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』や、ファーストの世界観をさらにバージョンアップした2枚目の『フィールズ・ライク・ホーム』、カントリー色を前面に押し出した『リトル・ウィリーズ』や、よりロック色の強い路線を打ち出した『ザ・フォール』と、ノラのアルバムにはそれぞれ固有のカラーがある。
上記アルバムには「このアルバムにしかない!」という独特なカラーがあるし、アルバムとしての確固としたキャラが存在する。
しかし、この『ノット・トゥ・レイト』には、そのようなアルバムとしてのキャラ立ちするような強い要素が希薄だ。
逆にいえば、何の気負いもなく軽い気持ちで聴けるという良さもあるし、ニューヨークのアパートの一室で、ノラが恋人のベーシスト、リー・アレキサンダーと親密な空気の元でプライベートな演奏をしたら、こんな感じの空気感のサウンドになるのかな?という覗き見(聴き?)的な楽しさもないわけではない。
しかし、これはノラの他の音源を一通り聴いた人にとっての愉しみであって、一番最初に勧めるべきクオリティの高さは、残念ながらこのアルバムにはない。
ヴィヴィットかつ印象に残る曲は、マンドリンのバッキングがユニークで、ウォルター・ホーキンスの野性味溢れるトロンボーンと、トム・ウェイツ的曲調を楽しめる《シンキン・スーン》ぐらいなもので、残りの楽曲は、軽く口をついて出てきた鼻歌がそのまま楽曲として昇華されたようなものが多い。
だからこそ、悪くいえば曲の推敲や、アレンジの練りに欠けるという受け止め方もできるし、好意的な眼差しを向ければ、他のアルバムに漂うオフィシャル感が抜け、プライベート感漂うノラの習作集という受け止め方も出来る。
一番最初にこのアルバムを聴いてしまった人は「ノラ・ジョーンズってこんなもの?」と訝しく感じるかもしれないし、代表作『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』や、ウォン・カーワイ監督の映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』のオープニングテーマなど、一通り彼女の作品を聴いてから接すれば、「こういうノラもアリかもね」と感じるかもしれない。
いずれにしても、第一印象が大事なように、アルバムだって聴く順番が大事なんだよな~ということを教えてくれる1枚。
もちろん、私は嫌いではない。
しかし、もし最初に聴いていたら、きっと他のノラ・ジョーンズの音源には手を出していなかったかもしれない。
記:2009/12/08
album data
NOT TOO LATE (Blue Note)
- Norah Jones
1.Wish I Could
2.Sinkin' Soon
3.The Sun Doesn't Like You
4.Until The End
5.Not My Friend
6.Thinking About You
7.Broken
8.My Dear Country
9.Wake Me Up
10.Be My Somebody
11.Little Room
12.Rosie's Lullaby
13.Not Too Late
Norah Jones (vo,p,g)
Chuck MacKinnon (tp)
J.Walter Hawkes (tb)
Jose Davila (tuba)
Rob Sudduth (ts)
Bill McHenry (ts)
Daru Oda (vo,fl)
Adam Levy (el-g)
Jesse Harris (g)
Tony Scherr (el-g)
Kevin Breit (mandrin)
Larry Goldings (org)
Lee Alexander (b)
Andrew Borger (ds)
Tony Mason (ds)
Julia Kent (cello)
Jeff Zeigler (cello)
Richard Julian (vo)
M.Ward (vo) etc.
2002年
追記
彼女のキャリアの中では、一息ついている作品というか、習作集とでもいうべきか。
新譜の『ザ・フォール』ほど、私の中では評価は高くありません。よくも悪くも、ノラの中ではもっとも平凡な1枚と感じます。
ただ、悪くはありません。印象に残る「立つ」楽曲がないのがこのアルバムの弱いところと感じますが、ボーっとしているときに流すには悪くないサウンドテイストではあります。
記:2009/12/09(from「快楽ジャズ通信」)