ナウズ・ザ・タイム/ソニー・ロリンズ
気楽に聴けるロリンズアルバム
大文豪が、気楽な気分で書いたエッセイ。
これを肩肘張らずに読むような楽しさがある。
といっても、ロリンズは「文豪」という風情ではないが、それでも大物には違いなく、たとえば傑作『サキソフォン・コロッサス』や『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』を聴く際には、多少気分的には畏まってしまう私。
ロリンズ自身、そのときのレコーディングは畏まっているかどかまでは分からないが、豪快なブロウとは裏腹に、かなり神経をすり減らしながら即興演奏をしていることは伝わってくる。
だから、それが伝染してしまうのかな、けっこう受け手と送り手の間にはピリピリとした真剣な関係が築きあがってしまうのだ。
もちろん、その関係は心地よいものでもある。
しかし、そんな畏まりとは皆無の世界が、今回紹介する『ナウズ・ザ・タイム』だ。 正直、演奏は、荒い。
初期のプレスティッジやブルーノートで認められた、アドリブの緩急や、ちょっとした綾が無くなってしまい、全体的に大味になってしまっている。
もちろん、この「大味」は、場合によってはスケールの大きさにもつながるわけで、一概にマイナスな要因とはいえないところもある。
しかし、細やかさやメリハリの欠いたアドリブの演奏も増え、手放しに「名盤だ!」と言えるアルバムとは言いがたい。
しかし、そのぶん気軽に聞ける。
おそらく、ロリンズも気負いなく、ただ気持ちよく吹くことだけに専念して録音したのではないだろうか。
スタンダード中心の選曲だが、特に凝った構成やアレンジはなく、言い方悪いが、ジャムセッションに気の生えた程度のクオリティの演奏だ。
そういった意味では、散漫さが目立つアルバムともいえる。
いや、ロリンズ自身が散漫というよりは、企画や編集方針が散漫なのだと思う。
ハービー・ハンコック、ロン・カーターという注目に値する異色の組み合わせが目を惹くが、彼らのユニークな個性が発揮されたとは言いがたく、彼らは、良い意味でのサイドマン以上のものではない。
もっとも、《ラウンド・ミッドナイト》のピアノソロは、ハンコックならではの硬質さとキメ細かさが若干光っているといえなくもないが……。
もっとしっとりと演奏されてしかるべき《アイ・リメンバー・クリフォード》のテンポ設定といい、中途半端に短い演奏時間と、尻切れトンボ的な終わり方といい、どうにもリハーサルの域を出ない出来だ。
スタジオで休憩の合間に「ちょこっと合わせてみましょうか」的な感じしかしないのだ。
ただ、“吹くこと”に専念しているロリンズのテナーに関していえば、《ブルーン・ブギ》や《フォー》は、あくまで、このアルバムの中においてだが、イイ線をいっていると思う。
太く、エモーショナルに放つ、モリモリとバイタリティ溢れるサックスは、無心に、浴びるように聴いてこそ正解。
次第に気分が高揚してくること受け合い。
記:2005/08/04
album data
NOW'S THE TIME (RCA)
- Sonny Rollins
1.Now's The Time
2.Blue 'N' Boogie
3.I Remember Clifford
4.52 Street Theme
5.St.Thomas
6.'Round Midnight
7.Afternoon In Paris
8.Four
Sonny Rollins (ts)
Thad Jones (cor) #4
Herbie Hancock (p) #1,6,7
Ron Carter (b) #1,5,6,7
Bob Cranshaw (b) #2,3,4,8
Roy McCurdy (ds) #1,2,3,4,5,6,7,8
1964/01月・02月