オーヴァーシーズ/トミー・フラナガン

   

チェルシー・ブリッジ

《チェルシー・ブリッジ》という曲が好きだ。

エリントン楽団の名アレンジャー、ビリー・ストレイホーンの曲だが、メロディといい、曲調といい、ちょっとアンニュイな感じが、とても心の琴線に触れるのだ。

そして、私はこの曲を聴くためにトミー・フラナガンの『オーヴァーシーズ』に手が伸びる。 しんみりとした曲調と、トミフラのツボを押さえたタッチが、よくマッチしているのだ。

ソフトで柔らかいニュアンスで弾かれるテーマと、ピリッとした緊張感を漂わせる倍テンポに転じた時のアドリブ。

この対比が見事だ。

短い演奏時間ながらも、要点を簡潔にまとめ、的確にツボを押さえたトミフラのプレイを聴いていると、まるで上質なショート・エッセイを読んでいるような感覚に陥る。

この“要点のまとめ方”は、きっと多くのホーン奏者や、歌手の伴奏の体験を通して培われたに違いない。

一歩引いた自己主張

管楽器奏者や歌手が休んでいる間の数コーラスのソロを、リーダーよりもでしゃばることなく、それでいて、短い時間の中で、聴衆の心に残るピアノソロをさり気なく弾くのがトミフラが“名脇役”と呼ばれる所以だが、このような経験を通して、自然と“一歩引いた自己主張”が身についたのだろう。

このセンスは、自分が主役となったピアノトリオでもいかんなく発揮されている。

トミー・フラナガンのピアノトリオのアルバムで、私にとってのベストは『エクリプソ』。
個人的には、『オーヴァーシーズ』のバージョンアップ盤だと思っている。

ドラムスが『オーヴァーシーズ』と同じくエルヴィン・ジョーンズ。

そして選曲も『オーヴァーシーズ』と重なることから、ついつい比較の目で見てしまう。

演奏の溌剌さでは『エクリプソ』の方に軍配を上げたい。

しかし、だからといって『オーヴァーシーズ』が劣るのかというと、全然そんなことはなく、むしろこちらの方が選曲は光っているんではないかと思う。

《チェルシー・ブリッジ》のほかにも、《ダラーナ》、《柳よ泣いておくれ》などは、個人的には大好きな曲、というよりも演奏が散りばめられている。

いずれも、甘さと緊張感が心地よく共存した演奏で、私が『オーヴァーシーズ』に求める雰囲気、気分といったものは、元気の良い《リラクシン・アット・カマリロ》などよりも、甘くなり過ぎないこれらのバラードの演奏なのだと思う。

本当に『オーヴァーシーズ』で聴けるバラードは、エレガントで趣味の良い演奏のものばかり。

このアルバムは、トミフラがJ.J.ジョンソンのクインテットに在籍時に欧州ツアーに出た折に、ストックホルムにて、ジョンソン・グループのリズムセクションだけで録音したものだ。

エルヴィンの躍動感溢れるブラッシュ・ワーク、ウィルバー・リトルのガッシリと演奏を支えるベースワークも見事だ。

記:2002/11/11

album data

OVERSEAS (The Complete Overseas) (DIW)
- Tommy Flanagan

1.Relaxin' At Camarillo
2.Chelsea Bridge
3.Eclypso
4.Dalarna
5.Verdandi
6.Willow Weep For Me
7.Beats Up
8.Skal Brothers
9.Little Rock
10.Dalarna (take 2)
11.Verdandi (take 2)
12.Willow Weep For Me (take 1)

Tommy Flanagan (p)
Wilbur Little (b)
Elvin Jones (ds)

1957/08/15

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動画解説

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