樹の海-JUKAI-/試写レポート

   

jukai

良い映画だった。

とても丁寧に作られた作品だった。

この映画製作に携わったすべてのスタッフ、関係者に「ご苦労さま」と言いたい。

あ、「ご苦労さま」じゃ、すごくエラそうだよね。お前何様だ?って感じだよね。

訂正。

この映画製作に携わったすべてのスタッフや関係者の皆様に「とても良い映画を見せていただきました。ありがとうございました」と言いたい。

しかし、なかなかこの映画の内容や良さを短い言葉で的確に人に伝えるのは難しい。

ま、思ったことをつらつらと書いてゆこう。

自殺の名所、青木ヶ原樹海がモチーフの映画だから、当然ながら「自殺」がこの映画に横たわる大きなテーマ。

試写会が始まる前に、プロダクションノートを目を通す。

いくつかの箇所で「これは“生”の映画だ」と書かれている。

さらに、監督自身が綴った言葉にも目を通す。

「自殺をしてはいけないという映画を作ろうと思った」

うーむ、ありがちな、逆説的主張っぽい。正直、やっべぇなぁ~と思った。

説教クサい映画になってないかなぁ、だとしたら、重っ苦しいよなぁという一抹の不安。

しかし、それは杞憂だった。

重いテーマを扱いながらも、重苦しくなり過ぎず(だからといって軽いというわけではない)、登場するそれぞれの人間と人生を青木ヶ原樹海という共通の下敷きのもと、一人一人の人間の生、あるいは死を、丹念に浮かび上がらせることに成功している。

常に送り手側の目線は、鑑賞側受け手の目線に限りなく近いところにも好感が持てた。

我々よりも高い位置から問題提起をしていないのだ。

4つのエピソードが展開される。

チンピラ借金取り(池内博之)の話。

彼は、夜逃げをして樹海の中で死のうとした女性からの電話を受け取り、樹海の中に足を踏み入た。そして……。

暴力団組織にそそのかされて公金を横領した公団職員(荻原雅人)。

口封じのために彼は殺され、死体は寝袋にくるまれて樹海に遺棄されたが、実は彼は死なずに生きていた。樹海を彷徨う彼が見たもの、出会ったものは……。

樹海の中で自殺した女性をめぐって、安飲み屋で交わされる探偵(塩見三省)とサラリーマン(津田寛治)の会話。

見覚えのないはずの女の遺品からは、なぜか自分の写真と名刺が出てきたという…。

ストーカー行為のため、都市銀行勤務という職を失い、今はひっそりと駅の売店で淡々と贖罪の日々を送る元銀行員の女(井川遥)。

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地味でさえないネクタイが、2人の女性を救う……?

この4つのエピソードは、独立した物語でもあるが、モノや新聞を通して、間接的にリンクさせることによって、それぞれの物語を立体的にし、作品としての統一感をはかることにも成功している。

どのエピソードも興味深かった。

ほとんど一人芝居ともいえる、池内博之と萩原聖人の演技も良かった。

あと、井川遥にだったら、ストーカーされてもいいかなぁと思った(笑)。というのは嘘で、ラスト近くの樹海で見せる彼女の表情がとても美しかった。

しかし、エピソードでいうならば、私は、塩見三省と津田寛治のエピソードが興味深かった。この話は、4つのピソードの中では唯一、樹海が登場しない話だ。

初老の探偵と一流企業勤めのサラリーマン。

新橋。

どこにでもあるような店員の態度の悪い、安居酒屋で交わされる会話。この2人の男の奇妙な出会いと、やがて芽生えはじめる友情と連帯感。

心温まると同時に、深遠なテーマをさりげなく滑り込ませることにも成功している。

樹海を舞台にせずとも、樹海で自殺した女性の話をめぐって、人の死と人生ついて考えさせる内容に昇華させたのは見事だと思った。

4つのエピソードの中に、違う角度からスポットを当てたこのタイプの話が1つ挟まれたことによって、単調にならず、よりいっそうこの映画が立体的になった。

これは自殺の映画ではない。樹海を一つのテーマとした、それぞれの人間ドラマだ。

人を呑み込む圧倒的な大自然と、そこに迷い込む無力な人間を対比することによって浮かび上がらせた一つの人間ドラマなのだ。

安っぽいセンチメンタリズムにも陥らず、道徳的な教条主義にも陥らず、しかし、きちんと作り手側のメッセージは、しっかりとこちらに伝わってくる。

律儀に丁寧に、愚直なほどにまなざしを「人間」に向けた映画なのだ。

オススメです。

観た日:2005/03/18

movie data

樹の海-JUKAI-
監督・脚本:瀧本智行 プロデューサー:青島 武、永田芳弘 脚本:青島 武、瀧本智行 出演:荻原聖人、井川遥、池内博之、津田寛治、塩見三省、余貴美子、大杉漣、小嶺麗奈、小山田サユリ、中村麻美、田村泰二郎 ほか 初夏、渋谷シネ・アミューズほか、全国順次ロードショー

記:2005/03/19

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