アット・ザ・ゴールデン・サークル vol.3/バド・パウエル
ジャズ喫茶の空気をビシッ!とシメる
ジャズ喫茶でアルバイトをしていて気づいたことの一つ。
それは、かかるレコードによって、店の雰囲気が本当によく変わるということ。
音が人間心理と空間にもたらす効果は予想以上に大きいということ。
かかるレコードが変わった途端に、店の空気が驚くほどに変わってしまうという体験を何度もした。
急にくつろいだ雰囲気になったり、
楽しげな雰囲気になったり、
抹香臭い雰囲気になったり、
ハードボイルドな空間になったり、
なんとも言えないほどシラけた空間になったり、
と。
店の緩んだ雰囲気、リラックスした空気をビシッと締めたい場合は、前期・後期を問わず、バド・パウエルをかければ、まず間違いなく雰囲気が変わる。
自宅で小音量でかけているときは、それほど気がつかないのだが、ジャズ喫茶レベルの音量でかかるパウエルの音圧の強いピアノの音は、店の空気を一変させるほどの「力」がある。
このことに気づかせてくれた最初のアルバムがコレだ。
なにげに凄いA面のブルース
『ゴールデン・サークルvol.3』は、どちらかといえば、B面(レコードで言えば)の《アイ・リメンバー・クリフォード》に人気がある盤なのだと思うが、A面(レコードで言えばね)全部にわたって展開される《スウェディッシュ・ペイストリー》も凄いと思う。
何が凄いのかというと、なんの変哲もないブルースを普通に弾いているだけなのに、いや、恐ろしく淡々と弾いているだけなのに、最後の一音まで、強引に耳を奪われてしまうということ。
長尺演奏なのにまったく飽きない。
というよりも、飽きさせてくれない。
演奏中にはなんのアレンジも施されていない。
リズムやフレーズのキメがあるわけでもなく、テーマを弾いた後は延々とアドリブが続き、後半になると、ベースソロらしいベースのランニングがあるぐらいなもの。
ほとんどジャム・セッション状態だ。
演奏になんの仕掛けも施さずに、ただピアノを延々と弾き続けるだけで、これほどまでに、我々の耳を捉えて離さないということは、相当凄いことだと思う。
次から次へと無表情にフレーズを紡いでゆくパウエルのピアノ。
淡々として、本当にそっけないのに、なぜか一音一音には「力」がある。
ベースとドラムは凡庸だが……
リズム隊もヨーロッパの現地調達のベーシストとドラマーなので、腕はそこそこ。
悪いとは言わないが、少なくともパウエルのプレイに積極的に絡むというわけではなく、良くも悪くも無難な演奏に終始している。
「ピアノをサポートする」という職務を忠実にまっとうはしているが、それ以上のことはやっていない。
それなのに、ここまでに我々の耳を魅了してしまうのは、どういうことだろう。
やはりパウエルの発したピアノの音に魔力が宿っているとしか思えないのだ。
興味のある方は、一度騙されたと思ってジャズ喫茶でこのアルバムのA面をリクエストしてみてください。
記:2004/03/09
album data
AT THE GOLDEN CIRCLE vol.3(Steeple Chase)
- Bud Powell
1.Swedish Pastry
2.I Remember Clifford
3.I Hear Music
Bud Powell (p)
Torbjorn Hultcrntz (b)
Sune Spangberg (ds)
1962/04/19,Stockholm
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