アット・ザ・ゴールデン・サークル vol.4/バド・パウエル
5枚の中ではもっとも手が伸びない作品
個人的にはバド・パウエルのゴールデンサークルのライブシリーズ5枚の中では、もっとも聴く頻度の低い盤かもしれない。
その理由はアルバム前半の3曲を『vol.2』と無意識に比較してしまっているからだと思う。
たとえば、1曲目の《ムース・ザ・ムーチェ》は、『vol.2』のほうがドラムに躍動感があり、聴きごたえがある。
2曲目の《スター・アイズ》も、同アプローチながらも『vol.2』の演奏のほうが演奏の尺がしっくりとくる。
3曲目の曲の《ブルース・イン・ザ・クロセット》も、『vol.2』の演奏のほうが、この『vol.4』のミディアム・バウンスなテンポよりも速めで、パウエルのアドリブの内容も溌剌としている。
などなど、どうも前半の3曲は『vol.2』の別テイクのように聴こえてしまうことが、私があまり『vol.4』に手が伸びない原因なのかもしれない。
ドラムが走り出す《ジョーンズ・アビー》
前半はいまひとつに感じるこのアルバムだが、このアルバムの「顔」はむしろ後半にあるのだろう。
パウエル自作の《リーツ・アンド・アイ》。
絶頂期の頃の演奏に比べるとキレは感じられないものの、なんだかホコホコとしたピアノが楽しげで、ついつい聴き入ってしまう。
次いでこちらも自作曲の《ジョーンズ・アビー》。
私の中ではこの《ジョーンズ・アビー》こそが、『vol.4』のイメージカラーを決定づける演奏だと思う。
とにかくドラムが元気なのです。
最初のテーマのときのテンポはゆっくり目なのに、アドリブパートに突入したとたん走り出す。
あれよあれよとテンポが速くなる。
さすがのパウエルもドラマーの走りだしたテンポに追いつこうとピアノを合せている。
いつもは、リズムセクションに自分のピアノを合せてもらっているパウエルが、この演奏では、走り出したドラムに追い付こうとしているところが微笑ましい。
ドラマー好みのナンバー?
《ジョーンズ・アビー》という、何の変哲もない「B♭循環」のナンバーには、ドラマーを焚きつける要素があるのだろうか? ヨーロッパでパウエルと共演したときのケニー・クラークのドラミングもそういえば元気だった。
中期から後期にかけてよく演奏されていたこのパウエルのこのオリジナルナンバーには、ドラマーのドラム心をくすぐる要素があるのではないかと感じている。
もちろん私はドラマーではないので実際はどうなのかは推測の域を出ないのだが、この曲の符割りに秘密があるのではなかろうか。
この曲に合わせてベースを弾いていると、すごくテーマのアクセントや休符のタイミングがツボにはまるからだ。
均等に1小節に「4つ」を奏でているがゆえに感じる絶妙な位置に配されたメロディの「間」。
この「間」にドラマーがブラシをスネアに「バシン!」と入れれば、さぞや気持ちがいいのだろうな、と思うのだ。
実際、ザナドゥ盤の『バド・パウエル・イン・パリ』に収録されている同曲ではケニー・クラークがビシバシとブラシを叩きまくっていてとても心地よい。
この『ゴールデン・サークルvol.4』で感じられるドラムの勢いも、もしかしたら曲の符割りのなせるわざなのかもしれない。
テーマに刺激されたスパンベルグが、テーマが終わる頃に勢いづいて走り出したのかな? なんて考えながら聴くのも、妄想ではあるが楽しい。
記:2013/06/18
album data
AT THE GOLDEN CIRCLE vol.4
(Steeple Chase)
- Bud Powell
1.Moose the Mooche
2.Star Eyes
3.Blues In The Closet
4.Reets and I
5.John's Abbey
6.That Old Devil Moon
Bud Powell (p)
Torbjorn Hultcrntz (b)
Sune Spangberg (ds)
1962/04/19,Stockholm
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