リターン・トゥ・フォーエヴァー/チック・コリア
混沌をも含んだ楽園サウンド
真の意味での「楽園」サウンドなんじゃないかと思う。
つまり、一口に「楽園」といっても、青空、青い海、そよぐ風、心洗われる風景だけじゃないってこと。
美しい景色の裏に潜む危うさ。
楽園と呼ばれ、原色で彩られた南の島も、群生する樹木の中に一歩分け入れば、原色で彩られた蛇や毒虫が蠢き、加えて危険な猛獣たちも等しく息づいているということも忘れてはならない。
チック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』は、一聴爽やかなサウンドだが、意外と妖しさと毒もまぶされた内容のサウンドだと感じるのは私だけだろうか?
まぶされた、と言っては語弊があるかもしれない。
恐らくチックは自覚していないのかもしれない。周到に美しい音で彩ったつもりの演奏から、“はからずとも”ヤバい要素が“噴出”してしまっている。
フローラ・プリムの絶叫。
ノッてきたスタンリー・クラークは、我を忘れてベースをうねらせる。
加速してゆくリズムは、演奏を混沌の一歩手前にまで誘う。
アタックの柔らかいエレクトリック・ピアノの音色は、エグい和音の響きをいくぶん緩和してはいるが、かなりキツめの音塊も時折放たれる。
《ラ・フィエスタ》に至るまでの長いベースソロは、晩年のコルトレーンが《マイ・フェバリット・シングズ》を吹き始める前の、長く不気味なジミー・ギャリソンのベースソロのようではないか。
《クリスタル・サイレンス》のデリケートで儚い美しさは、同時に鋭利で油断していると凍傷をおこしかねない光彩をも放つ。
マイルス・グループにおいては、気も狂わんばかりのエレピを弾きまくり、サークルにおいては、ひきつけをおこさんばかりの知的に狂ったプレイを繰り広げた直後のチックは、まだ毒気が抜けきっていなかったのだろうか?
時折見え隠れするヤバさも見逃せない。
作風の変化は、必ずしもチック本人の資質の変化ではないようだ。
露骨ではなく、チラリと見え隠れする混沌と殺気。
これがスパイスのようにアルバム中にピリリと点在するからこそ、ラストの《ラ・フィエスタ》が徹底的に快楽的なのだろう。
爽やかさと、そのハザマに見え隠れする毒気も見逃さずに等しく味わいたいアルバムだ。
注意していないと気が付かない程度の微量の毒だ。
微量ながらも強い毒。
しかし、毒が強ければ強いほど、快楽もまた深いのだ。
記:2003/03/21
album data
RETURN TO FOREVER (ECM)
- Chick Corea
1.Return To Forever
2.Crystal Silence
3.What Game Shall We Play Today
4.Sometimes Ago-La Fiesta
Chick Corea (elp)
Joe Farrell (fl,ss)
Flora Purim (vo,per)
Stanly Clarke (b,elb)
Airto Moreira (ds,per)
1972/02月
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