ラプソディ・イン・ブルー/寺井尚子

   

先日、ジュニア・マンスの公演終了後、このコンサートのベーシストが私の師匠の池田達也師だったので、楽屋へ遊びに行き、お互いの近況報告をしあった。

最近の師は、ジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子のバックでベースを弾くことが多いのだという。

へぇ、ジャズでヴァイオリニストといえば、ステファン・グラッペリとか斉藤ネコぐらいしか思い浮かばないんですけど…。

「いやいや、彼女はバリバリのビ・バッパーだよ。」

へ?ヴァイオリンでバップですか?超カッコイイじゃないですか!!

「そうなんだよ、もうバリバリのバッパー。彼女の部屋はマイルスとかのCDばっかりだからねぇ。(手を広げて)こーんなに一杯あるんだよ。」

かーっこいい!!(感動の嵐) で、で、で、寺井さんていう人、電気ヴァイオリンなんかも弾くんですか?

「いや、彼女、そういうの嫌いだからねぇ。」

硬派ですねぇ!!(←意味不明)

「そして、彼女、顔もすごく美人じゃない?」

そうらしいですねぇ。(←後ろの席に座ってベラベラとウンチクをたれていたジャズ評論家気取りのオヤジの会話の聞きカジリによると。)

「だからオヤジ連中なんかが、カワイー顔した姉ちゃんが、なんだかヴァイオリンでジャズやってるらしいなぁ、ってことで冷やかしでライブ観に来るんだよ。ところがイメージと全然違う音を出して実力を見せつけちゃうから、ビックリ仰天してファンになっちゃう人も多いよ。」

へぇ、そうなんですか。ものすごく興味を持ちました。聴いてみますね。

といったような会話を交わし、早速、寺井尚子のCDを渋谷のタワーレコードで探した。数枚のCDが陳列されていたが、パーソネルに「ベース:池田達也」とあるものを選んで購入した。

『ラプソディ・イン・ブルー』というマキシシングルだ。

他のアルバムのジャケットも拝見したが、たしかに綺麗な人だと思った。

昨年、「食用ムーミン」というピアノトリオを組んでいたのだが(今でも心は活動中)、そのトリオのピアニストに雰囲気が似ていると思った。

彼女も美人だし、女性の場合は、美人か可愛い人しかバンドのメンバーにしないというのが、私のとても良い癖の一つなのだが、余談はさておき、このようなルックスをしていれば、たしかにジャズ・オヤジたちは「なんだかクラシックのお嬢様っぽい顔しているけど、まぁひとつお手並み拝見といくか」という冷やかしの気分になるのも分からないでもない。

大西順子のような野獣のような凄みをたたえた雰囲気とは対極の、醸し出るソフトなイメージからは、そう感じるのも無理はないと思う。

で、肝心のサウンドだが、これがとても良いのだ。

残念なことに私の期待していた4ビートの曲は、このマキシシングルには入っていなかった。

《ラプソディ・イン・ブルー》、そして自作の《シンキング・オブ・ユー》、《出会い》、《ピュア・モーメント》は、いずれもスローなテンポのムード音楽的なサウンド。

下手すると、コーヒー一杯が1000円以上もするようなホテルのロビーにある喫茶店で流れている高級BGMっぽい内容になりかねないような演奏だなと一瞬思ったが、ひとたびヴァイオリンの音色に耳を集中させると、これがまた深い。

とてもウォームな音色で、暖かく、優しい。そして澄んでいる。

私はあまりクラシックには詳しくないのだが、ヴァイオリニストの諏訪内晶子が出演している「チャイコフスキー記念コンサート」のLDや、彼女のCDを何故か持っているので、たとえば音色の面を諏訪内晶子のヴァイオリンと比較してみると、全然違う。

これは、あくまで私の好みの問題だし、正確にはどちらがヴァイオリン的には良い音なのかといったことに関してはまるで無知なことを断った上で感想を書くと、諏訪内のヴァイオリンの音色はハッキリ言って好みではない。

キンキンとした音色が、時にヒステリックに聞こえてしまい、落ち着いて聴けない。神経を曇りガラスを引っ掻くように逆撫でされているように感じてしまうからだ。

それに比べると寺井尚子のバイオリンの音色の何と暖かく柔らかいことよ。

私もアマチュアながら楽器を弾く人間なので、音色の大事さは身に染みて分かっているし、実際良い音色を求めて幾たびも楽器を買っては売りを繰り返し、少しずつ音色のグレードアップをはかってきているつもりだ。

極端なことを言えば、テクニックよりも音色一発で聴衆を虜にしてしまうことの方が大事だとすら思っている。

いや、違う。「良い音色」を出せることこそが、最も忘れてはならない大切なテクニックなのだ。

そんなわけで、寺井尚子の深みのあるヴァイオリンの音色だけで、一発で虜になってしまった私。

まだ一枚しか聴いていない私が、寺井尚子をあまり云々するのも気が引けるが、取りあえずマキシシングルの『ラプソディ・イン・ブルー』に関して言えば、期待していたジャズっぽさは無かったにもかかわらず、「良い音」を聴かせてもらえたという感謝の気持ちでいっぱいだ。

ちなみに、このアルバムの表題曲は、名古屋の新名所“名古屋マリオネット・アソシア・ホテル”のCMにも使われているそうです。

名古屋で流されているCMも新名所もノー・チェックで良く分からないんだけど、やっぱりホテルのイメージなんかなぁ?

他のアルバムも、近日買って聴いてみようと思う。

確か「ドナ・リー」や「ストールン・モーメンツ」が収録されていたアルバムがあったような記憶があるので、今度は私の大好きなバップ・チューンを演奏している寺井尚子を聴いてみよう。かなり楽しみ。

なんたって、ヴァイオリンで「ドナ・リー」ですよ、「ドナ・リー」!!
わくわく。

記:2001/08/05

album data

Rhapsody In Blue (one voice)

1.Rhapsody In Blue
2.Thinking Of You
3.出会い
4.Pure Moment

寺井尚子 (vln)
野力奏一 (p,syn) #2,3
坂井紅介 (b) #2,3
日野元彦 (ds) #2,3
奥山勝 (p,syn)
池田達也 (b)
藤井摂 (ds)

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