美しくも儚い一式陸攻
2021/07/02
1/48 傑作機 No.49 1/48 三菱 一式陸上攻撃機 11型 61049
悲劇の航空機
斜め後ろから見た一式陸攻は美しい。
これに気がついたのは、つい最近のことだった。
鈍くさいイメージしか持っていなかったこの機体の新たな魅力を発見したので、なんだか少し嬉しくなってしまった。
三菱一式陸上攻撃機。
九六式陸上攻撃機の後継機として、昭和12年に開発され、昭和16年4月に海軍に正式採用された双発の攻撃機だ。
太平洋戦争のほぼ全期間を通じて活躍したこの爆撃機は、 陸上基地から発進して雷爆撃を行うという、海軍独自の戦略に基づいて作られたもの。
広い太平洋上で戦うために、四発機並みの行動半径を求められたため、爆弾搭載量と防弾装備が犠牲になっている。
また、本機の大きな特徴は、インテグラル式タンクを採用したため、翼の中に燃料を搭載出来ることになっている。
昭和16年12月10日の「マレー沖海戦」にて、イギリス極東艦隊の戦艦プリンス・オブ・ウェールズと重巡レパルスを、九六式陸攻とともに雷撃で撃沈するという華々しい活躍もあったが、防弾装備が皆無に等しいことと、速度が遅く、また運動性能も悪いことから、制空権が無くなると、ほとんど米軍機の餌食と言っても良いほど、バタバタと撃墜されていった可哀想な飛行機だ。
そんなわけで、一式陸攻は、長い間私の中では「やられ役」というか、第二次大戦のあまたある航空機の中では、「ザコキャラ」に近い存在だったことは否めない。
同じ爆撃機なら、キ67四式重爆撃機「飛龍」のほうが、強そうで格好いいではないかとずっと思っていた(余談だがこの機体には雷撃装備がよく似合う)。
加えて、なんとなくマイナスなイメージもつきまとっていた。
米軍パイロットからは、一発でも銃弾が当たればすぐ火がつくこととから「ワンショットライター」と呼ばれていたこと。
山本五十六元帥がこれの輸送機タイプに乗って前線視察途中に撃墜されたこと。
悲劇の有人ロケット爆弾・桜花の輸送機だったこと(しかもそのほとんどが桜花を発射する前に打ち落とされていた)。
……などなど。
この爆撃機が脚光を浴びたのは「マレー沖海戦」ぐらいなものではないか?
あとは、とにかく「米軍機の餌食」といった印象が強かった。
それに加えて、葉巻型というか、芋虫のような寸胴のボディ。
このドン臭い形もマイナスイメージに拍車をかけていた。
このページの掲示板にいらっしゃった方も、なんとなく「もっさり」した感じと評されていたが、言い得て妙な喩えだと思った(もっとも彼の場合はその「もっさり」感をプラスに評価しているが)。
ところが先日、秋葉原のプラモ屋で、ハセガワの一式陸攻のプラモの箱を空けて中の部品を物色したが、想像以上に翼の面積が広いことに驚いた。
翼そのものが燃料タンクの機体だから、その翼面席の広さには納得。
しかし、こんなに翼が広かったっけ?と自分の記憶の中に眠る一式陸攻のイメージを探ってゆくと、どうも私は一式陸攻を横のアングルから撮影した写真ばかりを見ていたことに気が付いた。
あるいは、着陸時に撮影された、下から見上げるようなアングルのもの。
だから、もっさりとドン臭いイメージしか抱いていなかったのかなと思った。
ということは、真上から陸攻を見れば、また違った印象の型になるのかなと思い、一式陸攻の写真やイラストを掲載している様々なサイトを巡回しまくった。
すると、真上からのアングルの画像はなかったものの、斜め後ろから見た陸攻の画像を何点か発見することが出来た。
視るアングルによって、本当に同じ飛行機かと思うほど、様々な表情を見せることにまず驚き、そして、斜め後ろから見る一式陸攻は、とても美しいと思った。
寸詰まり気味のボディが、より一層翼の長さを強調しているようでもあり、なんとも優雅な印象さえ感じる。
私の心の中の一式陸攻は、単なる「やられ役」から、もう少し親しみや愛着の湧く飛行機へと変化をしつつある。
余談だが、より一式陸攻を身近に感じられる作品の紹介を。
松本零士の戦場漫画に『ザ・コクピット』シリーズだ。
日本、ドイツ、イギリス、アメリカと、第二次世界大戦中の主にパイロットの生き様を描いた一話完結形式のコミックだ。
短いながらも、考えさせられる内容が多く、また、“殺し合い”という極限の状況で浮き彫りになる人間のドラマを淡々と描いた素晴らしいシリーズだ。
この『ザ・コクピット』には、いくつか一式陸攻が登場するエピソードがある。
この機体の搭乗員は7人。
7人がいれば、人間臭いドラマが生まれやすいのかもしれない。
事実、「スタンレーの魔女」や「音速雷撃隊」のエピソードにおける、“人間ドラマ”は、涙なしには読めない出色の出来だと思う。
彼らの物語をしっかりと背後で支えているのが、一式陸攻の雄姿なのだ。
記:2002/08/31