ソニー・ロリンズ、2つのピアノレストリオ

   

ソニー・ロリンズのピアノレス・トリオといえば、『ウェイ・アウト・ウェスト』と、『ヴィレッジヴァンガードの夜』の2枚のアルバムが思い浮かぶ。

両方とも私が大好きなアルバムだ。

『ウェイ・アウト・ウェスト』は、ロリンズが、いや恐らくはジャズマンの中では初めてピアノレス“トリオ”にチャレンジしたアルバムだ。

ジェリー・マリガンもピアノレスのフォーマットでそれ以前からトライはしていたが、彼の場合は2管のカルテットだったからね。

『ウェイ・アウト~』と『ヴィレッジ・ヴァンガード~』の2枚は、同じピアノレストリオという編成でありながらも、ずいぶんと感触が違う。

『ウェイ・アウト・ウェスト』は、コンテンポラリー・レーベルの録音。
『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』は、ブルーノート・レーベルの録音。

コンテンポラリーは西海岸(ロサンゼルス)のレーベル。
ブルーノートは東海岸(ニューヨーク)のレーベル。

コンテンポラリーは、楽器の音をそのままリアルかつ高音質に録音するポリシー。
ブルーノートは、楽器の音色に迫力を倍加させて録音するポリシー。

『ウェイ・アウト・ウェスト』はスタジオ録音。
『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』はライヴ録音。

このように、2枚のアルバムは同じ編成でありながらも、まったく違った条件の元で制作されているため、リーダーが同じテナーサックス奏者、ロリンズであっても、かなり肌触りの異なる作品に仕上がっているのだ。

『ウェイ・アウト・ウェスト』は、風通しの良い涼しさを感じる。
『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』は濃密な音から熱さを感じる。

ロリンズは、ドラムとベースという最小限の楽器をバックに自由自在にブロウをしている。

閃きと瞬発力に恵まれていた当時のロリンズのこと、フレーズによっては音の跳躍が激しいし、突然、素っ頓狂なフレーズにワープすることもある。

したがって、先の展開が読めないこともある。
数拍、あるいは数小節にわたって「沈黙」することもある。

その一瞬の空白で「虚」を突かれる「虚」のところの手薄感が、『ウェイ・アウト・ウェスト』の場合は、風通しの良いスカスカな気持ち良さにつながることもある。

しかし、『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』の場合は、ウィルバー・ウェアのぶっ太いベースと、パワフルなエルヴィン・ジョーンズのシンバルが空間を埋めるため、間違ってもスカスカな感じはしない。

むしろ、ウィルバー・ウエアのぶっ太いベースを聴いてしまうと、べつにピアノ必要ないよな、とすら感じてしまう。

『ウェイ・アウト・ウェスト』の録音は1957年3月上旬。
『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』の録音は1957年11月上旬。

その間、わずか8カ月。

8ヵ月の間に、ロリンズの表現スタイルは大きく変化しているわけではない。

しかし、レーベルカラー、それに伴う録音、そして共演者の違いなどが、主役は同じ、フォーマットも同じであるにもかかわらず、まったく違うテイストの作品が生み出されてしまった。

個人的には、ブルーノートの『ヴィレッジ・ヴァンガード』が好みで、それこそ気が遠くなるほど何千回も聴いてきたが(いや、何百回程度かな?)だが、さてあなたはどちらのアルバムがお好み?

記:2018/04/26

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