同じ曲でロリンズとコルトレーンを比べてみるのも面白い

      2017/05/22

sayaakane

『サキソフォン・コロッサス』のような名盤は、高音質のものを買いなおして、さらに深く鑑賞するという楽しみがある。

しかし、同じアルバムを買いなおすということは、よっぽどこのアルバムのことを好きな人が、くたびれたレコードや、聴き古したCDの二代目、三代目として買いなおすのがほとんどなんじゃないかと思う。

つまり、既に、このアルバムの内容を知っている人。
だから、少しだけ、マニアックな話を。

よく引き合いに出される《セント・トーマス》や《モリタート》ではなく、バラード《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ》の話をしよう。

同じテナー・サックス奏者、ジョン・コルトレーンもこの曲を演奏している。

ジャズの名盤紹介では、必ずといっても良いほど紹介される『バラード』というアルバムに収録されている。

ロリンズもコルトレーンもテナーサックスの巨人だ。

しかし、この二人が同じ《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ》をしても、まったく異なる内容になる。

これを聴き比べると、両者の個性や資質がまったく違うことがよく分かり、興味深い。

コルトレーンは、ほとんど原曲の旋律をなぞるような吹き方。

ロリンズは原曲のエッセンスを生かしつつも、彼なりに新しい旋律を紡ぎだしている。

原曲以上に素晴らしいメロディが生み出される瞬間すらある。

同じテナーサックスでも、両者は吹いている音域が違う。

ロリンズが吹いているテナーの音域よりも、一オクターブ高い音域でコルトレーンは吹いている。

個人的な感想だが、私はコルトレーンの出す高音域は、音域が高くなればなるほど安定感が無くなるのでので、この曲を高音域で吹いているコルトレーンを聴いていると、ちょっと不安な気分になってしまう。

反対に、ロリンズはどっしりと安定したフレーズで雄弁に吹いているので、聴いていて不安を感じることはまったくない。

もっとも、このコルトレーンの「不安定さ」は、最初から彼が意図した「効果」なのだという説もあるようだが。

アドリブも全然違う。

コルトレーンのアドリブは、あくまで原曲の持つフレーズの断片を執拗に繰り返す箇所が多い。

《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ》という曲のメロディさえ知っていれば、テーマを聴かずにアドリブの部分から聴きはじめても、注意深く聴けば、何の曲が演奏されているのかが分かると思う。

一方、ロリンズは、曲の持つテイストを壊すことなく、果敢に新しいメロディを作り出している。しかもアドリブの展開もメリハリがあって、なかなかスリリングで、なんとなく「ストーリー」のようなものすら感じられる。

あくまで「素材」をいかした味付けをするコルトレーン。

原曲の持つイメージを損なわずに、大胆にも曲を解体、結果的に新しい魅力ある旋律を再構築してしまうソニー・ロリンズ。

「ジャズはやっぱり"曲"だよ」
「いや、ジャズは演奏が良くてナンボのもんでしょ」

人によってジャズに対して求めるものや、感じるものは千差万別だ。

ソニー・ロリンズとジョン・コルトレーン。

どちらの《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ》が好きかで、その人の持っている「ジャズ観」のようなものが、ある程度分かってしまうのかもしれない。

もちろん、私は『サキソフォン・コロッサス』の《ユー・ドント・ノウ~》のほうがが好みです。

記:2009/10/19

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