隠れた名盤を大切に/C.ラウズ『ボサノヴァ・バッカナル』
text:高良俊礼(Sounds Pal)
マイナー 名盤
CDやDVDなどの新作は、それこそ毎日のようにリリースされているが、その中で流行り廃りを飛び越えて、「名盤」として残るものはごく僅かである。
そういった作品が1枚誕生するとしよう。それが音楽史の中で揺るぎない存在感を放ち、燦然と輝いているその裏で、素晴らしい内容に恵まれながら、マイナーな評価に甘んじて涙を呑んでいる作品というものは、少なくとも100枚はある。
で、大体そういう作品というのは、めでたく再発されても、ごく一部の局地的な盛り上がりを見せて、そのままカタログからフェードアウトしてしまう。挙げ句の果てに「マニアックなアルバム」という、あまり有り難くない別名まで付けられて、ますます内容について触れられることなく、更にマイナーな存在になってしまう。
隠れ名盤 紹介
私なんかはそういう「隠れ名盤」的な作品を、よく「音庫知新」で紹介していたし、お店でもなるべく色んな人に聴いてもらうようにしていた。
「良い、悪い」または「好き、嫌い」を判断するのは、視聴者の皆さんであり、お店にくるお客さんである。
とにかく聴いてもらわないと、知ってもらわないと意味がない。世間での評価とか人気とか、友達が聴いてるとか知ってるとか、そんな面倒臭い浮き世のしがらみとは関係のない次元で音楽を楽しもう。
極端な話、自分の好き嫌いでワガママに「良い、悪い」を振り分けてもいい。
そういう自由を世の人々に提供し、音楽を「マニアック」という言葉の呪縛から解放して差し上げるのが、我々CD屋の、いや、音楽を生業にしている人間の使命じゃないか。
そこまで考えても、やっぱり私は一個人である。個人だから個人の”分”をわきまえて、地道に素敵な音楽をこれからも紹介していきたいと思う。
チャーリー・ラウズ ボサ・ノヴァ・バッカナル
サウンズパルでは、チャーリー・ラウズというサックス吹きの『ボサ・ノヴァ・バッカナル』という、“聴いたら幸せな気分になれる作品”が実に売れた。
これはお客さんと会話して「コレ、イイですよ!」とオススメをしたわけでなく、お店で流していると、やってくるお客さんが
「今流れているボサ・ノヴァっぽいコレは何ですか?」
「今流れてるオシャレなジャズは何ですか?」
と、次々に興味を示してくれたのだ。
その時反応してくれたお客さんのほとんどは、ジャズに関する専門的な知識など持たず、ましてやチャーリー・ラウズという名前なんてほとんど知らなかった。
お客さんの心の中にあったのは「ボサ・ノヴァ風味の小粋なジャズ」「まろやかなテナーサックスの音色」に、直に触れた純粋な幸福感だけだったと思う。
恐らくその時CDを買った人のほとんどは、今もジャズの専門的な事柄とは無縁だろう。
でも、今も「これ、何かイイんだよね」と言いながら、大事な“くつろぎタイム”をボサ・ノヴァ・バッカナルと一緒に過ごしているはずだ。
記:2014/08/26
text by
●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル)
※『奄美新聞』2009年3月28日「音庫知新かわら版」掲載記事を改題加筆修正