堺雅人と、レッド・ガーランド

   

masato sakai

堺雅人の笑顔

基本、俳優は顔の造作を変えることが出来ない(ジョニー・デップのような役者は除く)。

また、声もまったく違う声色に変えて演技することは出来ない。

生まれ持った自分の顔や声で役を演じ分けるしかなく、したがって、与えられた役柄に合わせて、表情や仕草を変えたり、話し方を変化させることによって、別の人格になりきり、鑑賞者に与える印象をコントロールしているのだ。

たとえば、最近時の人でもある俳優・堺雅人にしても、それは同様だ。

彼は早稲田大学の演劇部時代は「早稲田のプリンス」あるいは、「微笑みの貴公子」と呼ばれていたように、にこやかな顔立ちが印象的な俳優だ。

また、彼の声も優しげな声色で、間違ってもドスの効いた野太い声質ではない。

つまり「優しい顔・声」の役者と強引に一言で括ることも可能だ。

しかし、そのような彼でも、半沢直樹のような行動的な熱血銀行員を演じるかと思えば、

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『リーガル・ハイ』での古美門研介弁護士のようなコミカルな役柄もこなす。

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彼がメジャーの舞台に踊り出た大河ドラマ『新撰組!』の山南敬助役では、トレードマークのにこやかな笑顔であっても「見下す笑顔」「見守る笑顔」と使い分けていたそうだ。

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このように、「同じ顔」という、たった一つの「資源」でも、ニュアンスや表情のつけかた次第では、いかようにも別な人物になりきることが可能なのは、俳優だけではなく、ジャズマンとて同様なのではないかと思う。

2つの資源

たとえば、ピアニストのレッド・ガーランド。

彼が持つ「資源」は、珠を転がすような美しいシングルトーンと、独特な光彩を放つブロックコードの響きだ。

極端なことを言えば、たった「2つ」の資源しか持っていない。

しかし、たったの「2つ」かもしれないが、どちらも強力に「レッド・ガーランド以外あり得ない」というほど強烈なキャラ立ちをしているため、このたった「2つ」でも十分に勝負できる素晴らしいピアニストなのだ。

それに、「たった1つ」の際立った個性すら持っていないジャズマンのほうが多い昨今、「2つ」も持っているということは、これはかなり凄いことでもある。

ガーランドのタッチ、音色、手癖フレーズ、ブロックコードの響きは、堺雅人を特徴づけるものが「にこやかな顔」と「優しげな声」の2点であることと同様、変わることがない。

しかし、共演するメンバーや、編成次第では、ずいぶんと違う音がしているということは多くのジャズファンもお気づきのことだと思う。

たとえば、マイルス・クインテットでピアノを弾くガーランドが出す音は、美しく張り詰めた緊張感に満ちていた。

その一方で、ほぼ同時期にプレスティッジに録音している彼のリーダー作のピアノのほとんどは、肩の力が抜けたように、ほど良くリラックスした味わいがある。

両方とも、同じ音色、同じ和音の響き、同じフレーズであるにもかかわらず、だ。

手持ちの「資源」は同じでありながらも、共演する相手や、自分に与えられた役どころによって、随分と異なるニュアンスのピアノを弾く。

自覚的に使い分けていたのか、結果的にそうなってしまったのかまでは分からないが、明らかにマイルスの元でのピアノと、自身がリーダーの時のピアノでは、随分と音の表情が違う。

この違いは、半沢直樹と古美門研介の違い以上かもしれない。

しかし、半沢も古美門も、誰もが別人ではなく堺雅人という役者が演じているということが分かるように、ガーランドのピアノの表情の差も、誰が聴いても、別なピアニストが弾いているとは思わないだろう。

「このピアノはレッド・ガーランドだよね?」と分かるはずだ。

それぐらい、彼が持っている音楽的キャラクターはシンプルながらも強力な存在感を持っているのだ。

ジャズマニアの間では、演奏を聞かせて「この楽器を弾いている人は誰?」と演奏者を当てる「ブラインド」という遊びがあるのだが、レッド・ガーランドほど「ブラインド」で正解を出しやすいピアニストもいないのではないだろうか?

おすすめガーランド

ガーランドを知りたければ。彼の代表作である『グルーヴィ』か『ア・ガーランド・オブ・レッド』のピアノトリオのアルバム、

グルーヴィーグルーヴィー

ア・ガーランド・オブ・レッドア・ガーランド・オブ・レッド

そして、マイルスがガーランドをメンバーにしていた頃の『クッキン』や『リラクシン』など、1956年に吹き込まれた「マラソンセッション」の4枚のうち、どれか1枚を聴けば、おおかたガーランドの特徴をつかめると思う。

クッキンクッキン

リラクシンリラクシン

特徴をつかんでしまえば、あと後は楽しむだけ。

ジャズを楽しむコツは、とにもかくにも、まずはジャズマンの表現の特徴をつかむことが第一だが、ガーランドほど特徴がつかみやすいピアニストもいないのではないだろうか。

もちろん、ガーランド以上に特徴が際立っているピアニストもいる。

たとえば、セロニアス・モンクやバド・パウエルのような「ジャズ・ジャイアンツ」と呼ばれるピアニストの表現は、やはり「巨人」なだけに際立った強い個性がある。

しかし、「強い個性」とは、裏を返せば「アクの強さ」に通ずるところもあり、決して万人受けをするタイプの個性とはいいがたい。

しかし、ガーランドの個性は、数音聴いただけで彼のピアノと分かるほどの個性を持ちながらも、アクの強さはなく、むしろマイルドで聴きやすい。

だから、私は初心者にジャズのピアノトリオを薦める際は、積極的にガーランドのピアノを薦めるようにしている。

「シングルトーンとブロックコード、この2つの個性に気付けば、聴くのがとても楽しくなりますよ♪」と言い添えて。

両者の共通点

そういえば、堺雅人の「にこやかで優しげな顔立ち」と、ガーランドのピアノの「わかりやすいフレーズ」は、親しみやすい、とっつきやすいという意味では、共通したものを持っているような気がする。

映画やドラマも、そしてジャズだって、まずは、とっつきやすいところから楽しんでしまうことがベストだと思う。

そして、ハマった人だけ、少しずつ奥へ奥へと、マニアックな道に進んでください。

ジャズの聴きどころ、鑑賞のポイントなどは、このサイトの記事が、微力ながらお手伝いできると思いますよ。
(^_-)

記:2015/04/25

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