セグメンツ/ジェリ・アレン
2024/01/16
ヘイデンの入門盤でもある
チャーリー・ヘイデンのベースを聴くためのアルバムだ。
もちろん、重く粘るジェリ・アレンのピアノもたっぷりと堪能出来るが、このアルバムは、チャーリー・ヘイデンのベースが前面に出ているアレンジが多いためか、どうしてもチャーリー・ヘイデンのベースを聴きたくなったときに手が伸びてしまう。
ヘイデンのベースをあまり知らない人、ヘイデンのベースに興味がある人にとって、この『セグメンツ』は、「チャーリー・ヘイデン入門」としても相応しいアルバムなのだ。
選曲も素晴らしい
そして、嬉しいことに、このアルバムは選曲が素晴らしい。
オーネット・コールマンやチャーリー・パーカーのナンバー、さらには私が大好きな、チャーリー・ヘイデンのオリジナル《ラ・パッショナリア》が入っているのだ。
バップからフリーまで、様々なアプローチを自在に行き来するジェリのピアノ。
そして、彼女のピアノの間を重く這うヘイデンのベース。
音数こそ少ないが、メロディアスなベースだと思う。
特に、《ロウ・イヤーズ》と《ユール・ネヴァー・ノウ》、そして、先述した《ラ・パッショナリア》の深くて、太くて、メロディアスなベースには、いつも聴き惚れてしまう。
ジェリ・アレンの重たいピアノ
さて、ジェリ・アレンについて。
彼女は、伝統的なジャズからフリー、M-Base派との共演まで、どんなスタイルにもマッチしたスタイルをこなしてしまうピアニスト&キーボーディストだ。
実は私は、音からではなく、彼女の経歴を雑誌か何かで読んで、興味を持った。
すなわち、「大学時代はピッツバーグ大学で民族音楽を学び修士号、エリック・ドルフィーの研究論文で博士号を取得」というところだが、エリック・ドルフィー好きとしては、一体どんなピアノを弾く人なのだろう?と興味を持ったのが、本作を購入したキッカケだ。
もちろん、内容は期待通り。
オーソドックスとフリーの狭間を奔放に行き来するピアノはスリルと起伏に富んでいると思った。
特に、1曲目の《ロウ・イヤーズ》のピアノが気に入っている。
ヘイデンのベース・ソロに続いて登場する、ジェリのピアノがカッコいい。
不協和音を用いながら、少しずつテーマの旋律を溶解させてゆく、フリーがかったアプローチが強く印象に残る。
彼女の鍵盤の打鍵は、セシル・テイラーや山下洋輔のようなアプローチでも、彼らのように突き抜けるような鋭さは無く、むしろ、重く鈍い。
この重さと粘り気が、ジェリ・アレン特有のピアノのタッチなのだ。
そして私は、この引きずるような重いリズム感の虜となっている。
彼女の重いピアノを味わえる、もう一つの名演は、ラストのしんみりした《レイン》。
ジェリのオリジナルの耽美的なナンバーだが、ラストを飾るに相応しい演奏だと思う。
重く暗い内容かもしれないが、聴きどころ満載の、歯ごたえのあるアルバムだ。
これが録音される1ヶ月前に録音された同メンバーによるピアノトリオ『イン・ザ・イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』と一緒に聴くと、なおのことアレン、ならびにヘイデンの魅力に迫れると思う。
記:2002/04/26
album data
SEGMENTS (DIW)
- Geri Allen
1.Law Years
2.You'll Never Know
3.Marmaduke
4.Cabala/Drum Music
5.Home
6.I'm All Smiles
7.Segment
8.La Pasionaria
9.Rain
Geri Allen (p)
Charlie Haden (b)
Paul Motian (ds)
1989/04/06-08
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追記
DIWから再発、『セグメンツ』!
ジェリ・アレンの『セグメンツ』が、本日再発された!
これは嬉しいぞ。
私は、このアルバムが、出た時にリアルタイムで買って聴いているが、これは、素晴らしく聴きごたえのあるピアノトリオです。
いや、「ベーストリオ」といってもいいかもしれないですね。
もちろんジェリのネットリとした重厚プレイも良いのですが、それ以上に、チャーリー・ヘイデンのベースがフィーチャーされたアレンジが多いのです。
ヘイデン好きにとっても見逃せないアルバムの1枚であることは確か。
ヘイデンの歌うベース
とにかく、全面に出てベースソロを奏でるヘイデンは、歌う歌う。
しかも、ハイポジションはほとんど使わず、あくまでローポジションの低音域で、朗々と、メロディアスに歌うヘイデン。
一曲目のオーネットの曲《ロウ・イヤーズ》なんかは、じつに印象的なソロを奏でているので、かつてはベースでコピーしたものです。
ヘイデンが奏でるこのベースのソロ、これはもう立派にひとつの「曲」ですね。
CDを再生しながら、流れてくる演奏に合わせてベースを弾くだけでも、なんだか気分は知的で思索的なジャズマンになれること請け合い。
それほど難しくないメロディなので(だからこそヘイデンは凄い!)、ベース初心者にもオススメな教材となってくれることでしょう。
さらに、ヘイデンが作曲した悲哀のナンバー《ラ・パッショナリア》。
これも、ヘイデンの沈痛なベースが、重く沈む、沈む。
この重量感はいったい何なのだろう?
私がヘイデンというベーシストにますます興味を抱くようになったアルバムでもあります。
ヘイデン入門にも最適
それにくわえて「ヘイデン入門」にも最適な1枚でもありますね。
じつは、林家正蔵氏の『知識ゼロからのジャズ入門』を企画、執筆している際に、「ヘイデン入門」として、このアルバムをセレクトしようとしたんだけれども、廃盤だったのかな、アマゾンではすごい値段がついていたので、掲載を諦めたんだよね。
もっとも、その代わりに選んだジョーヘンと一緒にやっているアルバムも、ヘイデン入門にはふさわしいアルバムであることには変わりはないのだけれども。
重いが重苦しくない
ジェリ・アレンのピアノは重たい。
後ろに引きずるような粘り気がある。
いっぽう、ヘイデンのベースも重いが、ジェリのピアノのような湿気の成分は少ない。
だからこそ、この2人の音色が合わさると、ちょうど良い按配の湿度感が生まれるんですよね。
ドラムスのポール・モチアンも含め、このピアノトリオ、3人のプレイも素晴らしいのですが、彼らそれぞれの持ち味である「音色」がブレンドされた時に生じる、なんともいえぬメランコリックな空気感がタマらんわけです。
メランコリックで少々重いけれども、彼ら3人のしなやかな感性が「重苦しさ」に陥らずに、最後まで聴かせてしまうのです。
このトリオ、未聴の人は、これを機会に是非聴いてみよう!
記:2008/06/20