姿なき挑戦者~セブンには秀逸なタイトルが多いと思う
『ウルトラセブン』のクール星人のことを書いていたら、
こちら>>クール星人
セブンの放映タイトルには中々秀逸なものが多いことに気が付いた。
クール星人が登場する第一話のタイトルが「姿なき挑戦者」。
中々良いタイトルではないですか。
透明な円盤でウルトラ警備隊に全面降伏を迫り、京浜工業地帯を全滅させ、「次は東京だ」と挑戦してくるクール星人。彼のことを地球防衛軍の長官が「姿なき挑戦者だ」と称したのがそのままタイトルになったようだが、中々そそるタイトルだと思う。
第二話の「緑の恐怖」というのも良いタイトルですね。
なんとなく江戸川乱歩チックで猟奇じみた話を連想してしまうが、あ、それは『緑衣の鬼』でしたね。
同様に「怪しい隣人」というタイトルにも同じような匂いを感じてしまう。
あと、ブラコ星人の「人間牧場」というのもエグいですな……。
「人間椅子」なんかよりもずっと。
エレキングが登場する「湖の秘密」も、色々と妄想を産む種となる言葉には違いない。
うーむ、なんだか湖畔の別荘で痴情のもつれによる殺人事件でもあるんですかねぇ?で、それを家政婦が見ていたり、旅行中のOL3人組が犯人を追いつめたり……?
なんて話では全然ないんだけど(当たり前)、なんだかそんな話を連想してしまうのはB級ドラマの見過ぎですか?
「マックス号応答せよ」「魔の山へ飛べ」「狙われた街」。
風雲急を告げるただならぬ空気感がたまらんです。スパイ映画や小説のタイトルに使われてもおかしくないですね。
「V3から来た男」というのも、何だか正体不明っぽい感じが怖くて謎っぽくて良いです。
まぁ、V3ってのは、単に地球防衛軍の宇宙ステーションの名前なんですけどね。
「アンドロイド0指令」「プロジェクト・ブルー」「サイボーグ作戦」もそうですね。
指令や作戦の内容はよく分からないけど、とにかく成功させなきゃ!失敗は許されない!という気がおきませんか!? え?おきない?
それじゃ、具体的な作戦内容が明示された「地震源Xを倒せ」は、どうでしょ?地震源でっせ。倒さないと町や工場や橋や煙突が倒壊しちまいまっせ。海だったら津波がザブーンでっせ。
もう一つ、「海底基地を追え」という具体的な指令の内容の分かるタイトルがあったな。
書いているうちに、命令形のタイトルが多いことに気が付いた。
「明日を捜せ」。
はい、捜します。「探せ」じゃなくて「捜せ」なところがイイですね。
「北へ還れ!」。
はい、還りますってば。
よく分からないけど。「帰れ」じゃなくて「還れ」なところがイイですね。
「700キロを突っ走れ!!」。
ビックリマークを二つも重ねられて、いきなりそう言われても、ねぇ…。
それじゃぁ、仕方がない、突っ走りましょうかね。
「消された時間」「ダーク・ゾーン」「宇宙囚人303」「遊星より愛をこめて」「空間X脱出」「第四惑星の悪夢」。
SF文学チックなタイトルですな。しかも、一体今度はどういう話なんだろう?という興味をそそるタイトルだ。
特に「散歩する惑星」なんて、とても想像が膨らむ素晴らしいタイトルだと思いませんか? ちょっと星新一チックなタイトルだとも思う。
「超兵器R1号」。このなんとか一号というネーミングが個人的にはすごく好きなんですね。「南極1号」は別ですが……。
「陸軍中野学校シリーズ」の「雲一号指令」とか「竜三号指令」とかね。
だって、私のハンドルネームは「雲一号指令」からいただいているぐらいなものですから。
犯罪小説チックでもあるし、恐怖映画の副題にもなりそうな「闇に光る目」。
ちょっとベタすぎるタイトルかもしれんけど、やっぱり闇に光る目は怖いですよ。
私も昔、ニューヨークの怪しい区画に真夜中に迷い込んでしまったことがあるんだけど、黒人の肌の色は闇の中では保護色なんだなぁということを改めて実感として感じましたですよ。
だって、白い目と白い歯だけが宙に浮いているんだもん。
ガラスの割れたアパートメント・ハウスや麻薬の売人ばかりがウロウロしていて、ラリッて体当たりしてくるような連中ばかりがいるような地域ということも相まって、やっぱり「闇に浮かぶ目」は怖かったですわ……。
ま、「闇に光る目」の目玉は、怪獣(宇宙生物)の目玉だから、それ以上にでっかくて度肝を抜かれますが。
「地底GO!GO!GO!」。
そうなんです。「GO!GO!GO!」なんです。よく分からないけど。
とにかく地底をGO!GO!GO!しないといけないんです。
「地底」という不可思議な言葉の響きも大好きだけど、とにかくGO!GO!GO!。もう勢いに負けますです。
この話に登場するユートムというロボットも大好き。
「零下140度の対決」「盗まれたウルトラ・アイ」「セブン暗殺計画」「史上最大の侵略」「ダン対セブンの決闘」。
これらのタイトルは分かりやすい。それ以上でもそれ以下でもない、というか、話の内容がなんとなく想像出来ますね。
「ノンマルトの使者」。
「使者」が来るからには、何かがある。何かが始まりそうなただならぬ気配が感じられるタイトルですね。
私、なんだかよく分からないけど、「使者」って言葉に不思議な趣きを感じてしまうのですよ。
佐々木譲の『ストックホルムの密使』の「密使」という言葉も好きだし。
ま、セブンの話の中での使者は子供なんですけどね。
その他のタイトル。
「恐怖の超猿人」。
うん、恐怖だ。
「円盤が来た」。おお!来たか!円盤が。そうか、そうか、来たんだ、やっぱり。
「ひとりぼっちの地球人」。これも、星新一チックなタイトルが良い。
「栄光は誰のために」。
さ、さぁ、誰のためにでしょうか……?
「悪魔の住む花」。そんな花、いらんです。
「必殺の0,1秒」。格闘技を連想しますねぇ。スポーツ紙の見出しっぽいです。
「水中からの挑戦」。これも同上。水中デスマッチ?!
「あなたはだぁれ?」。って聞かれても…。逆に突然聞かれても困るんですが。でも、話を見れば納得。なかなか当時の地域社会を風刺していて面白い。
そういえば、この話に登場する「佐藤さん」というサラリーマンは、ウルトラマンの科学特捜隊のムラマツ・キャップでしたね。
そして、私がもっとも好きなタイトルは、キング・ジョーが登場する「ウルトラ警備隊、西へ」。
そう、西なんですよ。西。なんだかよく分からないけど西なんです。
なんだか、ただならぬ空気感。そして人間一人のチッポケな力じゃ、到底抗うことなど不可能な、巨大な運命のウネリと波動。硝煙と炎と煙と密度の濃い窒息しそうなほど圧縮された空気に包まれ、そしてむせかえる私。
ケホケホケホ…。キング・ジョーをやっつけてくれよー、ウルトラ警備隊!そしてウルトラセブン! てな感じです。でもキング・ジョーもカッコいいしな。
でも、種明かしすると、「西へ」の「西」って、単に「神戸」のことなんですよね。
要するに、関西が舞台だからってことで、「ウルトラ警備隊、西へ」。
さすがに、「ウルトラ警備隊、関西へ」じゃ、ちょっと趣が無いですもんね。
私は学生時代によくフリー・ジャズをやっていた。
真剣に、ではなく、半分以上がふざけ心なのだが。
私はトランペットやサックスを吹けない。
吹けない私が、鳴らせない楽器を無理矢理鳴らそうとあがくと、トンデモなくフリーキーな音が出た。
そして、この音が聴きようによっては、何かを切々と訴えかけているように聞こえなくもない。もちろん聴きようによっては、ですけどね。
だから、大学の食堂の前や、大学の校門の前や、大学の学生課の下でよく野外演奏をしていた。後輩には「ナベ」を持たせて。
私のキチガイじみて、フリーキーなサックスやラッパの音色に合わせて、後輩はドラムのスティックでナベと「コーン、コーン」と叩いたりする。
時々、なんでもいいから叫ばせたりした。「(「蹴飛ばせ」の逆読みで)せばとけ~!!!」とかね。意味は全くない。
そんなことばかりやっていたので、しかも演る場所が大学の構内ばかりだったので、よく学生課に連行された。
「また君か!」とか、「君ねぇ~、芸術表現しているつもりかもしれないけどねぇ~もっと不愉快じゃない音を出してもらえないと…」なんていう説教はザラで、そのたびにに私は「不愉快じゃない音と愉快な音の違いを教えてください。
ボクは未熟者なので、そこらへんの違いがよく分かりません!今後の楽器精進の参考にさせていただきます!」などと喰ってかかったりしていたのだが、一番アタマに来たことが、「どうせ適当に何も考えないで演奏してるんだろ」と鼻でせせら笑って通り過ぎて行く連中の「適当に・何も考えないで」という言葉だった。
いや、まったくその通りで(笑)、本当に「適当に・何も考えないで」プカプカとサックス吹いたりしてたのだが、図星すぎると腹が立つので、きちんと曲の名前を用意することにした。
「どうせ、適当にやっている演奏なんだろ?」
「適当だから曲名なんてないんだろ?」
こういった言葉に対しては、「今のは『緑の恐怖』でした。えー、次は、『姿なき挑戦者』という演奏でーす!」という切り返しをいつでも出来るようにしておいた。
時々抜き打ちで、「今の曲なんてーの?」というヤジが飛んでくることもある。
そんなときに即席に返せるタイトル、しかも意味ありげでカッコイイタイトル、それがセブンのタイトルだった。
そして、随分と引用させてもらった。
「さっき演ってた曲なんてーの?」って聞かれて、「ああ、さっきのタイトルね。『人間牧場』っていうんだよ」と、切り返せるのってちょっとカッコ良いではないですか?(え?そうでもない?)
だから私は随分とウルトラセブンの放映タイトルのお世話になったといえる。
現に今でも時々即興演奏をして遊ぶことがあるが、苦労するのがタイトルのネーミング。
困ったときは、すぐにセブンのタイトル一覧表をズラーッと頭の中に思い浮かべ、もっともニュアンスの近いものを探すことにしている。
こういうヘンな利用法をしている人もそんなにいないとは思うが、それぐらいウルトラセブンの放映タイトルは今も昔も私にとってはカッコよく感じるものが多いのです。
以上。
記:2001/07/22