ハーフ・ノートのウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー・トリオvol.1
ウェスとケリー、抜群の相性
誰しも、1人や2人ぐらいは「この人と話すと楽しい、会話がはずむ」という相手がいるのではないだろうか。
いわば、相性の良い人といっても良い
ギタリスト、ウェス・モンゴメリーにとっては、ピアニスト、ウイントン・ケリーが相性の良い会話相手だった。
この2人の相性の良さ、ノリの一致は名盤『フル・ハウス』をお聴きになればおわかりいただけることと思う。
このアルバムでは、ウェスもケリーも互いが互いを引き立て合い、一世一代の名演奏を繰り広げている。
『フル・ハウス』のテイスト、ノリがお好きな方には、3年後に録音されたライブ音源『スモーキン・アット・ザ・ハーフ・ノート vol.1』をオススメしたい。
ニューヨークにあったジャズ・クラブ「ハーフ・ノート」でのライブ演奏と(前半2曲)、その2カ月後にルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオにて収録された演奏(後半3曲)が収められたアルバムだ。
フォーマットでいえば、ジョニー・グリフィンのテナーサックスが抜けた『フル・ハウス』とでも言うべき内容だし、いや、もしかしたら、全体から感じられるダイナミックなグルーヴ感は『フル・ハウス』以上かもしれない。
ウェスと共演するリズムセクション(ウイントン・ケリー・トリオ)は、『フル・ハウス』と同一メンバー。
さらには、一時期のマイルス・デイヴィスのグループのリズムセクションでもある。つまり、リズムのノリと安定感は保証されたようなもの。
くわえて襲いかかるグルーヴ、ドライブ感は超一級といっても過言ではない。
まずは冒頭一曲目の《ノー・ブルース》。
これで決まりだ。
演奏の勢い、熱気がムンムンと伝わってくる。いやがおうでも聴き手を興奮の坩堝に誘うことだろう。
ウェスの尽きることのないアイデア、ギターワークに圧倒されること間違いなし。グイグイ突き進むウェスのギターに、一瞬、ケリーのピアノのバッキングが止むシーンもあるほどで、これはもしかしたら、意図的な演出なのかもしれないが、もしかしたら共演者のケリー自身も、自分が演奏に参加していることを忘れ、ウェスのギターに聴き惚れていたのかもしれない。
このハーフノートでのレコーディングは、WABC-FM局のラジオ放送が目的で行われた非公式なものだそうで、アルバム化された音源も、エア・チェックされたテープが基になったとのこと。
よって、演奏している本人たちは、アルバムとして後世に残るレコーディングだという自覚はなかったのだろう。
もしかしたら、ラジオ放送の一回で終了する気軽なセッションのつもりで演奏したからこそ、「レコード化されるから頑張らなきゃ」というプレッシャーの無い状態で肩の力が抜け、ノリの良い演奏に仕上がったのかもしれない。
ウェスを煽るケリー。
ケリーに触発されるウェス。
力強く演奏の推進剤となるチェンバースのベースと、コブのドラミング。
スリリング、エキサイティング等といったありきたりな言葉がこれほど似合うアルバムもないだろう。
どこを切っても、どこを切っても最高としか言いようのない演奏だ。
勢いあふれる《ノー・ブルース》だけではなく、《イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ》や《ホワッツ・ニュー》といったバラードナンバーも、しっとりと落ち着いた味わいを見せつつも、「出るところは、しっかり出る」メリハリの効いた演奏を楽しめる。
円熟味に加え、それだけでは終わらせないパワーを内包しつつ、クールに演奏が進んでゆく。
演奏のメリハリ、ダイナミクス、どれをとっても極上の内容ゆえ、聴き終える頃には、まるでスポーツで汗を流した時のような、爽やかで心地よい疲労感を味わえるアルバムだ。
記:2011/04/20
album data
SMOKIN' AT THE HALF NOTE VOL.1 (Verve)
- Wynton Kelly Trio-Wes Montgomery
1.No Blues
2.If You Could See Me Now
3.Unit 7
4.Four On Six
5.What's New
Wynton Kelly (p)
Wes Montgomery (g)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (dr)
1965/06/24 #1,2 Live at "Half Note", N.Y.C.
1965/09/22 #3,4,5 Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, N.J.