サウスポー/試写レポート
リアルな痛みを感じる映画
バスッ!
ボスッ!
グローブがボディにめり込む音。
グエッ!という内臓の悲鳴までも聞こえてきそう。
比較的音響の良い試写会場で鑑賞したこともあるのだろうが、試合中の「殴」、つまり「打」の音が、あたかも自分自身のボディに食い込んでいくような錯覚を覚える映画だった。
ジェイク・ギレンホール
物理的な痛みだけではない。
マインドにもじわじわと痛みが広がってくる。
それは、この映画のストーリーであり、身体的な痛みのみならず、心の痛みに耐え、立ち向かってゆく主人公のジェイク・ギレンホールに、いつの間にか自身が同化しているからなのだろう。
ジェイク・ギレンホールほど、この映画、このストーリーには相応しい役者はいないのではないか。
あのストイックで哀しげな表情は、常にあらゆる痛みに耐えているかのようでもあり、同じボクシングの映画でも『ロッキー』のシルベスタ・スタローンが「陽」のヒーローだとすると、ジェイク・ギレンホールは「陰」のヒーローだ。
アメリカンコミックのヒーローに準えると、スーパーマンに対してのバットマンって感じかな。
エミネム
この『サウスポー』は、一言で言ってしまえば『チャンプ』の焼き直し、つまりリメイク盤ともいえる映画なのだが、『チャンプ』とは一線を画するのは、エミネムが企画の段階から大きく関わっていることだろう。
エンドロールの背景で流れる音楽を担当した彼は、映画そのもには登場しないが、彼が負ったダークな半生が作品の中に色濃く反映されているのだという。
私自身、エミネムにはあまり詳しくないので、どのエピソードにどのような形で投影されているのかはまでは分からないが、白人は白人でもプアホワイトに位置する若者が抱える特有の心の屈折感、怒り、反抗心などはエミネムの音楽には強く感じる。
息子が昔からエミネムが大好きなので、家でもよくかかってるのだが、シャープな刃物で心の奥を抉られるような痛さが、彼のラップの声と畳みかけるような勢いに感じている。
つまり、彼の音も痛い。
そんな彼が深く関わっていること自体、作品そのもにも「痛み」が浸透しているのだろう。
ストーリーそのもの、そして物語が進行するダイナミクスに関しては、良く言えば王道、悪く言えば「ありがち」な内容ではあるので、ここでは言及しないが、この映画は、ストーリーそのものよりも、スクリーン全体に漂い、こちらにも覆いかぶさってくる「痛み」がリアルであるというだけでも鑑賞する価値アリ。
とにかく『サウスポー』は、身体にも心にも「痛み」がじんわりと染みわたる映画なのだ。
「グサッ!」と。
そして、「ズキッ」とくるので、身体の弱い人は注意が必要かも。
心して鑑よう。
観た日:2016/04/11
movie data
監督:アントワン・フークア
製作:トッド・ブラック、ジェイソン・ブルメンタル、スティーブ・ティッシュ、ピーター・リッチ
キャスト:ジェイク・ギレンホール、レイチェル・マクアダムス、フォレスト・ウィテカー、ナオミ・ハリス、カーティス・“50セント”・ジャクソン
2015年
アメリカ
2016年6月3日(金)より公開
記:2016/05/28