スティーミン/マイルス・デイヴィス
2021/11/20
マラソンセッション
1956年、大手メジャーレーベルと契約したマイルス・デイヴィスは、これまで契約していたプレスティッジ契約枚数を消化するために、この年の5月と11月に、一気に大量の曲をレコーディングした。
これが、有名な「マラソン・セッション」と呼ばれるレコーディング。
ほとんどすべての演奏をワンテイクで仕上げ、レコーディングされた曲は、4枚のレコードに分けて発売された。
この4枚が、名盤の誉れ高い『クッキン』、『リラクシン』、『ワーキン』、『スティーミン』だ。
録音から4年後、最終的に発売されたのが、この『スティーミン』。
個人的には、正直言って、『クッキン』や『リラクシン』に比べると、個人的には印象が薄いアルバムではある。
もっとも、この印象の薄さは、ただ単に「それほど聴き込んでいない」という単純かつ個人的な理由からくるもので、内容の良し悪しの問題ではない。
だから、たまにライブラリーから取り出して聴くと、「やっぱ、いいじゃん、これ!」。
印象薄いだなんて思っていた自分を恥じる。
マイルスのハードボイルド的美学
《飾りのついた四輪馬車》のマイルスの丁寧な“歌唱”。
品よくサポートするガーランドも素晴らしいではないか。
♪ソッピーナッ、ソッピーナッ!
の歌唱を潔く取り払い、楽器演奏のみに徹した《ソルト・ピーナッツ》は、当時の黄金のクインテットの纏まりの完璧さと、卓越したチームワークを楽しめる。
フィリー・ジョーのドラムソロもエキサイティングだ。
そして、個人的にフェイヴァリットな《サムシング・アイ・ドリームド・ラスト・ナイト》に《ダイアン》。
嗚呼、なんて格調高い演奏なのだろう。
この『スティーミン』は、たしかに、他の3部作と比較すると、地味な曲、演奏ばかりなのかもしれない。
『クッキン』には《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》、
『リラクシン』には《イフ・アイ・ワー・ア・ベル》、
『ワーキン』には《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》。
他の3枚には、有無を言わさぬ「決め球」があるが、残念ながら『スティーミン』には、「この1曲」という存在、つまり強烈に「アルバムの顔」を主張する曲が無いのが、他のアルバムに比べると損をしているところなのかもしれない。
しかし、全体を貫く格調の高さは、他の3枚よりも1歩抜きん出ているんじゃないかと思う。
キャッチーな「トレードマーク」は無いかもしれないが、代わりにマイルスのハードボイルドな美学をアルバム全体から感じ取るべきだ。
曲の構成にも起伏があり、ひとつの『スティーミン』という物語を形成しているかのよう。
昼に聴いても良いが、どっぷりとこの世界に浸かるには、やはり夜に聴くのが良いだろう。
できればボリュームは大き目に。
もしかけてもらえるのであれば、バーのカウンターで聴くと最高だ。
記:2007/01/09
album data
STEAMIN' (Prestige)
- Miles Davis
1.Surrey With The Fringe On Top
2.Salt Peanuts
3.Something I Dreamed Last Night
4.Diane
5.Well,You Needn't
6.When I Fall In Love
Miles Davis (tp)
John Coltrane (ts)
Red Garland (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
1956/05/11
1956/10/26 #5
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