ストリート・レディ/ドナルド・バード
2024/03/01
最初の1曲でキマり!
スイートで柔らかいメロディとアレンジ、柔軟なリズムセクション。
モータウンミュージックが好きな人、メロディアスなソウルが好きなリスナーにとってはタマらない1枚だ。
とにかく、冒頭の《ランサナズ・プリーステス》を聴いてみてください。
というよりも、このアルバムはこの1曲で決まり!
最初の数秒で、一気に身体が弛緩し、口元もほころぶ。
ついでに、クサさの一歩手前の泣ける旋律で涙腺も緩んでしまうかもしれない。
リーダーのドナルド・バードには悪いけど、この曲は、彼のトランペットのプレイがどうのこうのという世界ではない。
1にも2にも曲のよさ、アレンジの良さの勝利だ。
作編曲を担当したラリー・マイゼルが、じつはこのアルバムの主役なのだ。
心も身体も高揚する!
たしかにアンサンブルに溶け込むように現れるバードのトランペットも演奏に奥行きと遠近感を与えてはいるが、我々の身体がまっ先に反応するのは、柔軟でバネの効いたリズムと、優しく暖かいメロディだろう。
このアルバムの前身にブルーノートのヒット作『ブラック・バード』がある。
しかし、『ブラック・バード』のサウンドをモノトーンだとすると、こちらの『ストリート・レディ』はカラフルな極彩色。
しかも、ケバケバしさや毒々しさのない、清涼感溢れるカラフルトーンのサウンドが全体を貫く。
うーん、気持ちが良い。
今の若い人だったら、レアグルーヴとして踊りながら聴くんだろう。
踊らないにしても、このような音源はボリュームを上げれば上げるほど良い。
お酒を出す店は、気分転換にボリュームを少し上げてかけてみるのは如何?
そして、カウンターでこれを聴いている善男善女の諸君、こういう音楽こそ口説きミュージックにも最適だと思うんだよね。
心も身体も高揚してきたタイミングで、是非、どうぞ(笑)。
素晴らしいグルーヴ感
このフィーリング、リズムの気持ちよさ。
受信感度が高く、センスの良い女性だったら、きっと自然に心も身体も開放的になってゆくと思うんだよね。
というか、私には、硬直したポキポキ、カクカクしたリズムのロックで女性を口説ける人のほうが信じられなかったりするし、ある種尊敬の念すら抱いている。
ロックや打ち込み音楽って、大音量を浴びせれば、一種の催眠効果はあり、気持ちのほうはオープンマインドになってくるのかもしれないけれども、本質的にはイーブンで硬い構造のリズムゆえ、精神的な高揚とは反比例して、身体のほうはどんどん硬直していくんじゃないかと思う。
まぁ、どうでもいいことだけど、ボブ・マーリーなどのクラシック・レゲエ、さらに、ドナルド・バードなどのクラシック・レアグルーヴを聴く度に、ふと時々こういうことを考えてしまうのは、きっと、こららの音楽の持つリズムが、並外れて滅茶苦茶気持ち良いからなのだと思う。
おそらく、模倣の得意な日本人でも、一番マネのしようがない領域、世界だと思う。
もちろん、ラップですらJ-ラップとかいうジャンル(?)を確立させてしまった日本人のことだから、「もどき」ミュージックは今も昔も大量に溢れてはいる。
で、かなりイイ線いっているものもあるんだけど、しかし、どれひとつとっても、この開放的かつ快楽的なポケットの広いリズムに達しているものはないと思う。
ちなみに、このアルバムのリズムセクションは、ベースがチャック・レイニー、ドラムがハービー・メイソン。
うーむ、リズムの達人、グルーヴを生み出す職人によるコンビネーションです。
もっともっと日本人のドラマー、ベーシストは彼らのリズムに耳を傾けるべきだ。ま、傾けたところで、ノリまで継承されるとは限らないけど。
しかし、一時期、細野晴臣はチャック・レイニーを彷彿させる、じつに良いベースを弾いていた。
最近はとんと“チャック・レイニーっぽい”といわれるベーシストを聞かない。
スタイルが古いから? 既に昔の人になってしまっているからかな(まだ生きているけど…)?
まぁ、スタイルの新しい古いはたしかにあるかもしれないけど、ノリの良さに新旧はないと思うんだけどね。
とにもかくにも、チャック・レイニー、ハービー・メイソンの素晴らしいリズムセクションと、その上に乗っかる素敵なメロディあるいはヴォーカルを楽しみたければ、マリーナ・ショウの『フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ?』とともに、『ストリート・レディ』はマスト・アイテムでございます。
記:2007/01/01
album data
STREET LADY (Blue Note)
- Donald Byrd
1.Lansana's Priestess
2.Miss Kane
3.Sister Love
4.Street Lady
5.Witch Hunt
6.Woman of the World
Donald Byrd (tp,flh,vo)
Roger Glenn (fl)
David T.Walker (g)
Jerry Peters (p,key)
Fonce Mizell (key,tp,arr)
Chuck Rainey (b)
Harvey Mason (ds)
Fred Perren (syn,arr)
Stephanie Sprull (per)
King Errison (conga)
Larry Mysell (comp,arr)
1973/06/13-15