ぼんやり褪色感のソビエト SU-122 襲撃砲戦車制作記/タミヤ1/35
2021/12/22
タミヤの水溶きアクリル
プラモデラーであり、アメコミ翻訳家でもあるブラスコウ/秋友克也氏の「水溶きアクリル本」や氏のサイト(モデログラード:模型とアメコミの日々)と、氏の著作を穴を空くほどチェックしまくっていた私は、いつか氏がタミヤの水性アクリル塗料(アクリルミニ)を水で溶いた効果によるフラット感、褪色感を別な方法で表現したいと常々考えていました。
というのも、こんなこというと自慢っぽくなってしまうんですが、中学生の頃にすでに私は水でしゃばしゃばに薄めたアクリル塗料でプラモを塗って遊んでいたんですね。
もちろん、秋友氏ほどのクオリティには足元もおよばず、絵の具を覚えたてのサルのような塗装でしたけれども。
タミヤの塗料といえば、私が小学生の頃までは、パクトラタミヤというエナメル系塗料しか出していなかったんですね。そして、私が中学生になった直後の頃だったと思うのですが、水で筆を洗えるという画期的なタミヤアクリルが登場したのです。
グンゼ産業(現在はクレオス)のラッカー系塗料が当時は100円(近所のスーパーでは90円)でしたが、タミヤから出た新塗料の価格は150円と少々高めでした。
しかし、ラッカー系塗料のような強烈なシンナー臭もなく、しかも、筆を水で洗えるとなれば、わざわざ薄め液を買う必要もない。
しかも、ミリタリーモデルに定評のあるタミヤが出している塗料ということもあり、戦車に使う色としてはかなりリアルに感じました。
特に、オリーブドラブの色味が大好きで、これを塗りたいがためにシャーマンを買って作ったほどです。
そういうこともあり、いつしか私はタミヤアクリルの虜となり、メインで使う塗料はラッカー系のグンゼから、タミヤアクリルに移っていきました(汚しはエナメル塗料でしたが)。
しかし、中学生って、やっぱりお金がないわけですよ。
だから、うすめ液(タミヤは「溶剤」)を買うお金がもったいないわけですよ。
なので、筆を水で洗えるなら、塗料そのものも水で薄めて塗ればいいじゃんという発想から、ある日、おそるおそる水をちょっと加えたダークグリーンでイギリスの6ポンド対戦車砲を塗ってみたんですよ。すると、乾くとなかなかの質感。
マット感(つや消し感)がより一層強くなったテイストは、ミリタリーものにはピッタリの質感で「うーん、リアル!」と感動したものです。
以来、私は溶剤を買うお金をケチって、タミヤアクリルを水で薄めながらマクロスやザブングルのプラモを塗装していたわけです。
その過程の中、水の量を増やすとプラスチックにはなかなか食いつかないことや(当たり前ですが)、濃いめに塗ってもラッカー系塗料と比較すれば塗膜が弱いことなどを体感しました。
特にアニメのロボットは、どうしても関節を動かしてポーズを作るので、その際に塗膜が剥がれてしまうことが多いのです。やっぱりアニメのメカにはラッカーなのかなぁなどと思いつつ、いつしか高校生になった私は、プラモよりも高校生活や音楽を作ったり演奏したりするほうに熱中するようになり、30歳半ばになるまでは、プラモをまったく作らない生活を続けていました。
そして、数年前、秋友氏の水溶きアクリルの書籍やサイトを拝見した際、非常に懐かしい思いになったのは、その大胆な塗装が醸し出すレトロ感、懐かしさからです。
大昔に私が水溶きアクリルで塗っていた作品の数千倍のクオリティの作例の数々。
ああ、中学生の時に断念したアクリル水薄めを極めていたら、きっとこういう作品を作れるようになれていたかもしれないという思いから、私は氏の作品を溜息をつきながら眺めていました。
その中で気づいたことは、秋友氏は、兵器の質感、とくに褪色感に非常にこだわっているということ。
水溶きアクリルを薄く何層も重ね塗りをし、その後耐水ペーパーで軽く水研ぎをすることで、微妙な金属のくたびれ感や、ペンキの退色感を自在にコントロールされているのですね。
なるほど、秋友氏の作例の素晴らしさは、単に水で溶いたアクリルを使っているだけではなく、水で溶いたアクリルを何層にも塗り重ね、それを水研ぎすることによって生み出されているのだということに気が付きました。
当然、マネをしてみましたよ。
何層にも塗り重ねたアクリル塗料の上から800~1000番の耐水ペーパーでヤスってみました。
しかし、ぶきっちょな私のこと、力を入れすぎたり、力を入れるポイントが滅茶苦茶なためなのか、どうしても、プラスチックの下地がコンニチワしてしまうんですね。
しかも気づけば机の上は水びたし。
しかもプラスチックの粉が混ざった水があちらこちらに飛び散っている。
これを吹きとるのが面倒だし、水がビシャビシャでなんだかイヤな感じ。
あと5~6回練習すれば、きっと上達するのだろうけれども、こらえ性のない私は、水で薄めたアクリル塗料を塗ってはドライヤーをかけ、乾いてはまた薄く塗り重ねるという作業と、それを上から水研ぎをするという作業が、どうも体質的に合わないことに気が付きました。
しかし、秋友氏のような退色表現をしてみたい。
だから、ラッカー系塗料にフラットベースを多めに混ぜてみたり、エアブラシで塗装する際は、少しずつ白を混ぜて明度を上げてゆきながら何層も吹き付けることを繰り返したりと、現在試行錯誤中の段階です。
しかし、先日作ったソ連のSU-122襲撃砲が、偶然ですが、なんとなく私が目指している褪色感に近いニュアンスが出せたんじゃないかと思うんですね。
もちろん、秋友氏が制作されたソ連の襲撃砲とは雲泥の差の出来ではあるのですが。
●参考記事
>>タミヤ 1/35 SU-85 モデログラード:模型とアメコミの日々
というわけで、今回は軽くこの戦車(自走砲)の制作レポートを書いてみようと思います。
組み立てと塗装
まずはキットの箱。
— Model Making (@modelnica) April 9, 2021
以前作ったSU-85もなかなかカッコよかったのですが、個人的には、より無骨さを感じるSU-122のほうに魅力を感じます。
太い砲身を支える六角柱の無骨なフォルムがチャーミングだからです。
で、箱の中。
— Model Making (@modelnica) April 9, 2021
デカール。
組立説明書です。
ランナーを並べてみました。
— Model Making (@modelnica) April 9, 2021
部品が少なく、ストレスなく組みあがるのがタミヤ製ソビエト戦車の良いところ。
あっという間に完成一歩手前の状態に。
— Model Making (@modelnica) April 12, 2021
車体下部は、後に塗料が届かなくなる箇所も出てくると思うので、あらかじめ黒⇒マホガニー⇒ダルレッドの順番で適当ランダムスプレー吹きをしています。
履帯(キャタピラ)は、素材への食いつきを考え、タミヤのスミ入れ塗料(エナメル系塗料)で軽く塗装しています。
車体上部は、砲身と燃料タンクが合わせ目消しをする必要があるので、先に組み立て&接着をし、仕上げとチェックのためにグレーのサーフェイサーを吹いています。
これらを合体させ、これまでエアブラシで使用した際に残った塗料の混合液を全体に軽く吹いた後に、黒、赤褐色、レッドブラウン、オレンジ、シルバーなどを適当に乗せて下地作りをしました。
下地が乾いたら、基本塗装。
今回の意図は、「光や角度によってダークグリーンにもダークイエローにも見える不思議な色に塗ってみたい」です。
なぜ、そんなワケのわからんことを考えたのかというと、風呂にはいっていた時に急に閃いたから(笑)。
ソ連の自走砲って、ダークイエローに塗ったら、ラングやヘッツァーやヤークトパンサーみたいなドイツの突撃砲っぽく見えるんじゃないのか?って。
かといって、ストレートにダークイエローで塗るのもベタだし、鹵獲戦車っぽくなってしまうので、ダークグリーンでもあり、ダークイエローでもある色ってどんな色だろう?と風呂場と寝床で考えて末に出てきた結論は、「交互に薄く塗り重ねる」という至極全うというか当たり前すぎる方法論でした。
すなわち、ダークグリーンよりも明るいグリーンと、ダークイエローよりも薄い色を薄めて塗り重ねれば、なんとなくそれっぽくならないかな?という仮説のもと、まずはダークグリーンよりは明るい蛍光グリーンを塗ってみることにしました。この色は、他の色上から塗り重ねても、緑色としての主張が残りそうな気がしたからです。
これを塗った後、まだ半乾きの状態の上から、薄めたキャラクターフレッシュを吹き付けました。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
キャラクターフレッシュは、色調があまりにキャッチ―な感じがするために使い道がほとんどなかった塗料だったのですが、こういう実験をする際には重宝している塗料です。以前は砂漠の砂の汚れを表現するために履帯に軽く吹き付けてみたりもしましたしね(失敗でしたが)。
で、意図したとおりの色味になったかどうかは分かりませんが、あとはウェザリングで「それっぽく」してみました。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
油彩のバーントシェンナを基調とした「あっさり汚し」です。
砲身にくっついている六角形の「箱」がチャーミングですよね。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
けっこう仰角があることに驚きです。俯角はあんまりなさそうだけど。
俯角があまりないのは多くのソビエト(ロシア)戦車の特徴かも。
まさに、角度と色次第ではドイツ戦車に一瞬(一瞬ね)見えるんじゃないか?という仮説を、ぼんやりと体現してくれた画像がコレ。
車体後部の汚しは、ピーチブラックやバーントアンバーの比重を増やしています。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
履帯などの金属部の汚し、というか錆表現は、カドミウムオレンジやバーントシェンナで。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
海外モデラ―のビビットな作品に見慣れた目からすると、かなり物足りない色調かもしれませんが、最近の私は、これくらいのテイストのあっさり仕上げがけっこう気に入っています。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
最後の仕上げは、ホワイトで軽くドライブラシ。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
燃料タンクを支えるベルト(?)などのモールドが白く浮き上がっているのは、アイボリーホワイト効果です。
— Model Making (@modelnica) April 16, 2021
グリーンにもダークイエローにも見えるという、微妙なぼんやり感はなんとなく出せたと思うのですが、それ以前に褪色した感じにも見えます。
本当は緑色なんだけれども、だんだん色あせていくうちに、こうなっちゃいました的な色彩。
だとすれば、はからずとも「水溶きアクリル塗料以外の手法で褪色感を出してみたい」という私の欲求はある程度満たされたことになります。
もちろん今後の研究の余地はありますが、地味な仕上がりでありながらも、ぼんやりなテイストを出せたことに関しては、ぼんやりした性格の私ゆえ、非常にうれしい出来事ではありました。
記:2021/04/17