テザード・ムーン/菊地雅章

      2021/11/12

よじれ、つっかえ、生みの苦しみ

オビのコピーに書いてある、「マイルス亡き後、“ジャズ・シーン”を動かす唯一の男、菊地雅章が待望のトリオ編成による~」は、いささか大袈裟すぎると思う。

しかし、“ジャズ・シーン”とか“待望”といった言葉とは無関係に、《ミステリオーソ》における精神の曼荼羅迷宮に迷い込んだがごときのピアノは素晴らしいと思う。

セロニアス・モンク作曲のブルースナンバー《ミステリオーソ》は、流麗に演奏されても、つまらない。

その旋律、というか音列ゆえに、バイエルやツェルニーの練習曲のように聴こえてしまうから。

多少の“つっかえ”や“よじれ”があったほうが良い。

その点、菊地のピアノの“つっかえ具合”は、《ミステリオーソ》をさらにミステリアスたらしめている。

この真っ直ぐ進むようでいて、足踏みしたり、立ち止まったり、なかなかスパッと結論に至らないピアノは、まるで彼の音の創作過程に立ち会っているようで、気が付くと一緒に「音の生みの苦しみ」につきまとう苦悶の表情を浮かべている自分がいたりする。

この『テザード・ムーン』は、1,2,4、6曲目のように、躍動感のある演奏はそれなりに素晴らしいが、自己陶酔と紙一重なスローな曲には欠伸が出てしまうのは私の修行不足?

ただし、ゲイリー・ピーコックとポール・モチアンのリズム・セクションは、どの演奏も素晴らしい。

特に《ムーア》におけるゲイリー・ピーコックのベースソロは本盤のハイライトの一つだ。

同じ耽美的という表現も、菊地の耽美さと、ゲイリー・ピーコックの耽美さとでは、随分と質の違いを感じる。

記:2002/04/19

album data

TETHERED MOON (Paddle Wheel)
- 菊地雅章

1.You're My Everything
2.Misterioso
3.So In Love
4.Moniker
5.3P.S.
6.Moor
7.Tethered Moon

Masabumi "Poo" Kikuchi (p)
Gary Peacock (b)
Paul Motian (ds)

1991/11/16-18

 - ジャズ