ザ・チャンプ/ジミー・スミス
破壊力抜群の《バイ・ユー》
『ザ・チャンプ』の愛称でも親しまれているジミー・スミス初期の大傑作『ア・ニュー・スター・ニュー・サウンド vol.2』、通称『ザ・チャンプ』は、とにもかくにも、1曲目の《ザ・チャンプ》でしょう!
大音量でかけよう。
大音量で聴こう。
大音量であればあるほど良い。
8分近く、ひたすらオルガンのシャワー、オルガンサウンドの嵐!
途中で短いギターソロが挟まれるものの、それ以外は、もうひたすらオルガン、オルガン、オルガン!なのだ。
歪み気味の、柔らかな金属的な高音が、ぱきゃぱきゃと踊り狂い、左手が抑える和音の持続音がしょわ~と頭のてっぺんをクルクルと回る。
演奏の後半になればなるほど、エキサイティング度が増し、ほとんど「どうにも止まらない」勢いとバイタリティで、モリモリと弾き進んでゆく。
もしこれがライブだったら、少なくとも、あと10分は弾き続けているんじゃないか?と思われるほどの勢いだ。
とにもかくにも、ひたすらオルガンのサウンドを浴びたい人にとって、《ザ・チャンプ》は、うってつけの演奏といえるだろう。
まさに、ジミー・スミスの豪腕が降り注がせる、圧倒的な音の洪水、洪水、また洪水。
これを浴びれば、よっしゃ、俺もいっちょやったるでぇ!と元気が出てくること請け合いだ。
一転して、2曲目の《バイユー》。
こちらは、ありったけのエネルギーを開放した1曲目とは打って変わったスローナンバー。
そして、神保町のジャズ喫茶「BIG BOY」のマスターが大好きなナンバーでもある。
先日、「BIG BOY」を訪問したときのこと。
看板時間を過ぎ、お客が帰った後に、カバンの中から「たまにはオルガンもかけてくださいよ」 とこのアルバムを取り出した。
「BIG BOY」でオルガンものを聴いたのは、開店直後に、私が持参したエディ・ルイスとペトルチアーニのデュオをかけてもらったときぐらいだったので、久々に「BIG BOY」のスピーカーでオルガンものを聴いてみたくなったのだ。
「お、いいですねぇ、ボク、バイユー大好き、バイユーいいよ、かけよ、かけよ」 と、急にゴキゲンになったマスターは、私の手からCDをひったくり、『ザ・チャンプ』をかけた。
ノリノリのタイトル曲終わり、2曲目の《バイユー》が始まった。
気だるいスローテンポ。 最初の5音を発する間もなく、すでにヤラしい(笑)。
大味で、赤面するほどのクサさ。
しかし、このベタなクサさも悪くはない。
最初の5音で、マスターはデカい声で、「く~!」とか「くぁ~」と奇声を発しゴキゲンだ。
テーマの中盤は、まったりとしたギターがかったるそうにリードを弾くが、ちょっとクタびれ気味なタメと、訥々としたフレージングが、うーん、気だるい。
演奏中盤に、ジミー・スミスのオルガンのシャワーが唐突にボリュームが上がって始まる。
ビヒャーァと伸びる和音。
伸ばしに伸ばす。
伸びに伸びる。
鍵盤を押している間音が出せるオルガンだからこそ出来る芸当。ピアノじゃこういうわけにはいかない。
びゃーぁぁ、な和音が伸びる伸びる。
この伸びる和音の前にはいる、キャキャキャッという短い助走もたまらない。
大味でクサく、強引に黄昏な世界に持ってゆく腕力バラード、《バイユー》は破壊力抜群。
「おいコラ、こんなにビンビンに弾いてやってんだから、感動しろよな!」
音がそう主張している。
この暴力的なまでなクサさ、分かっちゃいるけどベタなクライマックスを前に、ジーンとするなと言われても、それはなかなか難しいことだ。
やるぜ、スミス。
バラードも元気一杯だぜ。
それに反比例するかのように、音数少なく、なんだかくたびれ気味で、クタ~っとしたギター(笑)。
これはこれで良い対比だと思う。
次のナンバーの《ディープ・パープル》も似たようなテイスト。
いい年した大人が二人、深夜のジャズ喫茶で、大音量のオルガンを前に、「く~」とか「きひゃぁ~」と、奇声を発していたのであった(笑)。
ジミー・スミスの代表作にヴァーヴの『ザ・キャット』が挙げられることが多いが、これは、アレンジも含め、全体のトータルなサウンドで聴かせる作品。
初めてジミー・スミスを聴くという方は、まずは、スミスのオルガンそのもののサウンドを体感して欲しい。
そのためにウッテツケのアルバムこそが、ブルーノートの『ザ・チャンプ』なのだ。
記:2007/02/05
album data
THE CHMP (A NEW STAR-A NEW SOUND JIMMY SMITH AT THE ORGAN vol.2) (Blue Note)
- Jimmy Smith
1.The Champ
2.Bayou
3.Deep Purple
4.Moonlight In Vermont
5.Ready'n Able
6.Turquoise
7.Bubbis
Jimmy Smith (org)
Thornel Schwartz (g)
Bay Perry,Donald Bailey (ds)
1956/03/11