シンキング・オブ・ユー/寺井尚子
優雅な《ドナ・リー》
なんて優雅で高貴な《ドナ・リー》なんだろう。
パーカーが演奏するけたたましくもエネルギッシュな演奏や、ジャコがベースでリードを取る面妖なバージョンに聴きなれた耳にはとても新鮮、かつ驚き。
まるで、格調高いクラシックの優雅な演奏を聴いているようだ。
同じメロディでも、楽器の音色の違いでこれほどまで違う表情を見せるのかと思うと中々興味深いものがある。
ヴァイオリンでジャズのお馴染みナンバーを演奏
寺井尚子の初リーダーアルバム、『シンキング・オブ・ユー』。
《ドナ・リー》をはじめとして、《ストールン・モーメンツ》や《ストレイト・ノー・チェイサー》などジャズではお馴染みのナンバーが披露されているのが嬉しい。
胸が締め付けられるように切ない気分になってしまう《アイ・ラヴズ・ユー・ポーギー》も極上の演奏。
これは泣けます。
寺井尚子のバイオリンの音色は、どこまでも太く力強く、その上、絹ごし豆腐のように滑らかで、暖かい。
破綻も澱みもまったくなく、どこまでも澄み渡っている。
《ドナ・リー》のようなバップナンバーから、《出会い》のようなムードBGM的な曲調、そして、《ウン・チコ・エン・ラ・プライア》のようなラテン調のナンバーまで、寺井尚子のバイオリンの表現は限りなく広い。
記念すべき彼女のデビューアルバムには多くのジャズ・ヴァイオリンの可能性が封じ込められている。
おそらく、ガチガチのジャズ好きではない人は、《ドナ・リー》のようなバップナンバーではなく、メロドラマチックなBGMのほうに響くのだろうが、出来ることならムードヴァイオリン路線に流れないことを祈る!
記:2003/08/10
album data
THINKING OF YOU (One Voice)
- 寺井尚子
1.Stolen Moments
2.出会い
3.Donna Lee
4.I Loves You,Porgy
5.Pachira
6.Un Pajaro
7.Da-Da
8.Highway At Midnight
9.Summer Night
10.Straight No Chaser
11.Thinking Of You
12.Little Sunflower
13.Un Chico En La Playa
寺井尚子 (vln)
野力奏一 (p,syn)
坂井紅介 (b,voices)
日野元彦 (ds)
1998年9月