コルトレーンの音色

      2019/09/28

ブルー・トレイン
Blue Train

「鉄」、「鉄屑」、「ボロ鉄」。
ホームページの掲示板や、いただいたメールの中で、コルトレーンの音色に関して、上記のような表現をされていた方が何人かいらっしゃったことを思い出した。

数人とはいえ、皆、一様に「鉄」という言葉で形容していたことが非常に興味深い。

「鉄」のような音。

面白い表現だ。

言われてみれば、確かにその通りだな、とも思った。

形容する言葉は違うけれども、私が感じているコルトレーンの音色から感じるニュアンスと、もしかしたら同じなのかもしれないと思った。

私が感じているコルトレーンの音色は、一言、「薄い」ということ。

テナーサックス特有の、少なくとも「ぶほっ!」という逞しく、太い低音ではないことは確かだ。

別に悪い意味で使っているわけではない。そこが彼の魅力なのだから。

彼の音色は、低音の成分よりも、もう少し「カリッ!」としたトレブリーな成分が強いと思う。使っているマウスピースや、リードによる差も大きいのだろうが、すくなくとも、ハンク・モブレイのような、「もわっ」としたまろやかな感じは皆無だ。

ベーシストでない人にとっては、なにがなんだか分からない喩えだが、フラット弦を張ったプレシジョン・ベースのもっこりとした低音というよりは、ラウンド弦を張ったジャズ・ベースのリア・ピックアップで拾った音に近い。

それが、ある意味、コルトレーンの持ち味だし、「あの音色」で、「あれだけの量の音数」を休むことなく吹きつづけるコルトレーンに我々は魅了されるのだろう。

奇しくも、『ジャズ批評』編集者の原田和典氏が、このことについて、何かに書かれていたのを最近目にした。「彼の音は薄い」と。

これを読んだときは、「おお、やっぱりそうか!」と思い、同じ感じ方をしている人がいることに、ちょっと嬉しくなってしまった。

「薄い音」、そして「トレブリーな成分の多さ」。

掲示板やメールに書かれた方は、上記の要素に、「鉄」「屑鉄」を強烈に感じたのではないだろうか?

そう言われて、そういう耳で改めて『ブルートレイン』や、マイルスの『カインド・オブ・ブルー』などを聴き返してみると、たしかに「鉄」を感じる。

シーツ・オブ・サウンズで吹奏されるメカニカルな旋律も、そう感じさせるのに一役買っていると思う。

なるほど、「鉄」に「屑鉄」。

うまい表現をするなー、と思った次第。

しかし、この「薄さ」はコルトレーンにとってはマイナス要素ではない。
特に、自己のカルテットを結成した時以来が顕著なのだが、エルビン・ジョーンズをはじめとした重量級リズム・セクションを得たことによって、自身のサウンドの薄さを補ってあまりあるどころか、非常に良い按配での対比効果が加わったのではないだろうか。

重厚なリズム・セクションを得たことは、コルトレーンにとっては、非常に良い方向に作用したのだと思う。

そして、その頃の「鉄屑」のような音色、私は大好きです。

ただし、バラードにおける、裏返ったような高音はやっぱりダメだけど。

メルマガ配信:2002/02/26
転記:2002/08/16

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