イントロデューシング・ザ・ファビュラス・トゥルーディ・ピッツ/トゥルーディ・ピッツ

   

良い意味で安っぽい

むし暑い季節になると、なぜかオルガンジャズを聴きたくなる体質のようです。

いや、暑くなくても6月になり、梅雨入りをして、少しずつ空気中の湿度が増し、なんとはなしに外の空気がモワリと重くなりはじただけでも、オルガンの「ビャー!」という音色のシャワーが恋しくなります。

その時手が伸びるのって、ジミー・スミスの初期にレコーディングされたブルーノートの最初から5枚目ぐらいまでが、もっとも気分的には最適です。

しかし、にわか雨が降りそうな曇り空が延々と続く、はっきりしない天気の日は、もう少しB級テイストただようオルガンジャズを聴きたくなる。

たとえば、ビッグ・ジョン・パットン、あるいはフレディ・ローチだったり。

そして、そうそう、もう一人忘れてました。

女性オルガン奏者のトゥルーディ・ピッツ。

彼女のアルバムは、ギターにパット・マルティーノが参加しているプレスティッジの『イントロデューシング・ザ・ファビュラス・トゥルーディ・ピッツ』しか持っていないんですが、これがなかなかイイ。

中途半端な天気がもたらした中途半端な気分を吹き飛ばすのにはピッタリなんですよ。

良い意味で安っぽい。

アメリカの田舎のどこにでもあるような街道沿いのカフェやレストランで流れていそうな感じのオルガンジャズなんです。

バドワイザーが似合うオルガン

たとえば《テイク・ファイヴ》。

この曲は、ポール・デスモンドがアルトを吹き、デイヴ・ブルーベックがピアノを弾く『タイム・アウト』の演奏がもっとも定番かつ有名ですよね?

この演奏には、コーヒーも似合うし、ウイスキーやブランデーも似合わないこともない。

似合う飲み物のレンジが広い演奏なんですね。

ただし、香りが豊かな飲み物のほうがイイかなって感じはするんですが。

ところが、トゥルーディがオルガンで勢いよく奏でる《テイク・ファイヴ》は、これはもうバドワイザー。

キリンでもアサヒでもエビスでもなく、バドワイザーが似合うんです。

ハイネケンとか、コロナのように日本国内でメジャーなビールは他にもあるんですが、これらのビールは似合わない。

あの、薄くて水のようで香りなど望むべくもない、とにかく喉の渇きを手っ取り早く解消し、味わって飲むという目的など二の次のバドワイザーをゴクゴクと飲むときの気分にピッタリなんですよ。

ついて、オニオンリングとかポテトフライも欲しくなるという、まぁ、なんというかB級な気分で、ぶはっと陽気になりたい時に最適な《テイク・ファイヴ》なのです。

トゥルーディのちょっと乱暴なオルガン、少なくとも丁寧とは言いがたい演奏が、バドワイザー気分に拍車をかけてくれること請け合い。

そして、はっきりしないドンヨリとした曇り空気分も、なんとなく「まいっか」という気分にさせてくれるから不思議です。

湿度の高い夏に備えて、こればかりだとさすがに食傷してしまうかもしれないけれど、時には徹底したB級テイストで、暑さと湿気を忘れるためにバドワイザーとトゥルーディ・ピッツを常備しておくのも悪くはないと思います。

記:2015/06/25

album data

INTRODUCING THE FABULOUS TRUDY PITTS (Prestige)
- Trudy Pitts

1.Steppin' in Minor
2.The Spanish Flea
3.Music to Watch Girls By
4.Something Wonderful
5.Take Five
6.It Was a Very Good Year
7.Siete
8.Night Song
10.Matchmaker, Matchmaker

1967/02/15 & 21

Trudy Pitts (org,vo)
Pat Martino (g)
Bill Carney (ds)
Carmell Johnson (conga)

関連記事

>>稚拙さがかえって味わいを深めているトゥルーディ・ピッツのオルガン

 - ジャズ