マクロスのバルキリーについて
飛行機プラモのメーカー・ハセガワ(長谷川製作所)が、『超時空要塞マクロス』のバルキリーをスケール・モデルキットで出したことにはかなり驚いた。
1/72スケールで、値段も1600円前後とお手頃な価格だ。
1/72 超時空要塞マクロスシリーズ VF-1 バトロイド バルキリー #M10
バルキリー。
言わずとしれた、アニメ・『超時空要塞マクロス』の主役メカだ。
ファイター(F-14に似た可変翼戦闘機)、ガウォーク(飛行機に足と腕が生えたような形態)、バトロイド(2足歩行のロボット)の3形態に変形するという大胆なアイディアが盛り込まれた統合軍の主力兵器だ。
放映当時(1982~1983)は、その斬新な変形のアイディアには度肝を抜かれた方も多いことだろう。
私もオープニングに登場するバルキリーが、あまりにも素早く、そして鮮やかにファイターからバトロイドに変形し、次々と敵(ゼントラーディ軍)の戦闘ポッド(リガード)を倒してゆくシーンに衝撃を受けた一人だ。
余談だが、映画『トップ・ガン』の監督も、彼の息子に買ってあげた(息子が持っていた?)、バルキリーの変形するオモチャに触発されて、米海軍の主力戦闘機・F-14が主役の映画を作ろうと思い立ったそうなので、思わぬところに影響が出ているものだ(逆影響とでも言うべきか)。
さらに余談ながら、『マクロス』の続編で、当時はジャパニメーションなどと騒がれた日米共同制作の『マクロス・プラス』だが、私が持っている逆輸入版のLDのクレジットを見ると、「THE TOP-GUN OF JAPANESE ANIMATION」になっている…。
閑話休題。
ハセガワと言えば、言わずと知れたスケールモデルの老舗メーカーだ。
国内では、戦車やバイク、クルマのスケールモデルの大御所をタミヤとすると、ハセガワは飛行機プラモの老舗だ。
精密なスケール・モデル専門のプラモ・メーカーで、当然のことながら、キット化されているのは、実在する兵器や乗り物だけだったし、ガンプラ・ブームが訪れたときも、俄かアニメ・モデラーが増殖する状況に眉をひそめていた頑固なスケール・モデラーにとっての「良心」だったことも確かだ。
最近は、おもちゃ屋へ行くと明らかに我々大人を対象とした昔懐かしのアニメやヒーローの高額なおもちゃが目立つようになってきた。
少子化が進み、児童だけをターゲットにするわけにはいかなくなったのだろう。
大人の購買意欲を刺激し、大人の財布の中を虎視眈々と狙った商品がビックリするほど多く登場している。
おもちゃ業界の次なる狙いは、我々大人をも囲い込んだマーケットなのは明らかだ。
中には「少年の心を持った大人へ」というキャッチ・フレーズを歌い、明らかに大人の財布の中身を狙った商品もあるぐらいだ。
子供の頃、小遣いやお年玉をやり繰りして、やっとの思いでおもちゃやプラモも買った人も、社会人になれば、一回の飲み代よりも、はるかに安い値段でおもちゃを購入することが出来る。
親が厳しかったために、あまりオモチャを買ってもらえず、泣く泣く指を加えておもちゃ屋の棚を眺めていた子供も多いと思う。しかし、彼らも社会人になれば、稼いだお金を自由に使えるようになるわけだし、むしろ彼らの方が、幼い頃に買ってもらえなかった反動で、欲しかったオモチャやプラモを水を得た魚のように買いまくっている人も多いようだ。
いまだにサンダーバードのメカやサンダーバード基地が、発売された当時のままのパッケージと内容で店頭に並んでいるのはそのためなのだろう。
ちなみに私は、小さい頃からゲップが出るほどチョコボールを食べてみたかったのだが、今になってチョコボールを買い占めたり、クリスマスのケーキの安いやつを12月25日の夕方に買ってきて(つまり売れ残りになって値引きされたケーキ)、スプーンで丸一個ごと平らげてみたりと、ササヤカでセコイ愉しみ方をしているが、それと同じようなものなのだろう。
違うか……。
「マクロス」放映当時の小中学生は、いまやとっくに成人してしまっている。
中にはアニメのロボットからプラモに入門し、スケールモデルへと嗜好が変わったモデラーも多いだろうし、さしてプラモデルに興味がなくとも、当時のマクロスに熱中していたファンの数も相当な数に登るだろうから、彼らを取り込むのは容易だと思うし、中々ウマイやり方だなとも思う。
さらに、変形ギミックを売りにするよりも、いわゆる子供っぽい要素(=変形・ロボット)を払拭したリアル路線を追求したほうが、より彼らの贅沢な審美眼に叶う可能性が高い。
また、「リアルなスケール・モデル」的なテイストを前面に押し出して売り出せば、今も昔も、精密な飛行機のスケール・モデルキットを売りにしているハセガワの看板も傷つくこともないし、むしろ、アニメに登場したメカまでをもリアルに再現してしまう柔軟な姿勢に対して、モデラーやマクロス・ファンからは「よくぞキット化してくれた!」と賞賛される可能性の方が高いのでは、と思う。
もちろん私も「よくぞキット化してくれた!」と手を叩いて喜んでいる一人でもある。
私自身は、プラモデルから足を洗ってから既に15年以上たつが、ハセガワのバルキリーならば買っても良いかな?と、封印している「プラモ熱」が疼きかっていることも確かなのだ。
ハセガワもウマイところに目をつけたな、と思った次第。
さて、そのバルキリーだが、いくつかのタイプがある。
操縦するパイロットの階級によって、搭乗する機体の種類が異なるのだ。
機体の種類といっても、頭部の形状と、頭部に装備されている銃身の本数の違いだけなのだが。
頭部に機銃が一本のみのVF-1A。
これが一番標準的なタイプだ。
機銃が二本のVF-1J。
これが一番主役っぽいフェイスのタイプで、主人公の一条輝が搭乗していた機体がこれだ。
のちに主人公が乗り換えるタイプが、指揮官・隊長用のVF-1S。
頭部に銃身が4本ある。顔の輪郭がムンクの叫びに似ている。
また、複座式のVF-1Dという機体もあって、頭部の機銃は確か2本。
テレビ版に登場したVF-1Dは、オレンジ色のカラーリングが鮮やかだった。
私の場合は、最も一般的なタイプのVF-1Aが好きだ。
テレビ版では一番多く登場したサンド・カーキ調の塗装のVF-1Aは、いかにもザコキャラ的な存在感で、今一つだと思うが、映画版においての白を基調とした塗装の機体は格好良い。
もちろん、天才パイロットのマックス(マクシミリアン・ジーニアス)専用の青い塗装の機体も好きだ。
宇宙空間の戦闘においては、変形することにどれだけのメリットがあるのかは疑問だし(巨人との格闘戦を念頭に入れているらしいが)、物理的には変形することが出来る形状と構造をしていたとしても、現実においては変形する兵器、しかも人型に変形する兵器など、荒唐無稽な空想の産物以外の何ものでもないのだが、そんな野暮な突っ込みはさておいても、とにもかくにも、ファイター形態のバルキリーは、本当に美しい機体だと思う。
デザイナーの河森正治氏は、アニメのメカ、ことに航空機のデザインに関しては、きちんと空力を考えて、「本当に飛べる」形状を念頭に置いてデザインをしているのだそうだ。
さすがに、空気抵抗のことを考えると、洗練されたフォルムにならざるを得ないし、どうしても現用機のシェイプに近づいてしまうためか、まるで実在する戦闘機のように見えてしまう。
この空力にかなったデザインこそが、ファイター形態のバルキリーをリアルに魅せているのだろうし、空気抵抗までをも考慮した洗練された無駄の無いフォルムが、私のような飛行機好きにも美しいと感じさせるだけの説得力を持っているのだろう。
アニメに登場するメカとしてではなく、一つの流麗な航空機として、丁寧にじっくりと時間をかけてハセガワのバルキリーを作ってみるのも悪くないかな、とちょっとだけ考えている。
記:2001/06/02