ヴァージン・ビューティ/オーネット・コールマン

   

ポップでオーネットらしさも失われていない

『ソウルのゆくえ』(新潮文庫)で、ピーター・バラカン氏は、このアルバムを現代最高のソウルミュージックと称えている、私も異論はない。

デビュー以来一貫しているオーネット・コールマンの“ちょっとズレたフィーリング”が、非常にポップに、良い按配で実った素晴らしいアルバムだ。

ダブル・ギター、
ダブル・ベース、
ダブル・ドラムという妙な編成。

しかし、よくよく思い起こせば、彼のキャリア初期にレコーディングされた問題作『フリー・ジャズ』のダブルカルテットも、ダブルリード、ダブルベース、ダブルドラムスという編成だった。

オーネットの目論見、やりたいこと、表現したいことは、時代変われど、楽器がアコースティックからエレキに移行しようとも、なんら変わりがないのだなぁと痛感。

しかし、おそらく『フリー・ジャズ』を聴かせて「このズレの気持ちよさが……」と説明しても、おそらくは説得力はない。

しかし、『ヴァージン・ビューティ』を聴かせれば、一発で「オーネット流・ズレの心地よさ」は理解されるのではないかと思う。

この妙な編成が繰り出す、「微妙なズレ」の心地よさは半端ではない。

名作『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』で掴んだ手ごたえをさらに押し進めた感がある。より一層、ポップで聴きやすく仕上がっているのだ。

個人的には2曲目の《ブルジョア・ブギ》が大好きで、よくこの曲に合わせてフレットレスベースを弾いて遊んでいたものだ。

後半で、コールマンは突然トランペットを吹き出すが、この箇所は蛇足。

しかし、ノリは最高。
どの楽器もメロディを歌っている。

歌を形成するリズムが気持ちよくかぶさり、重層的なんだけれども、奇妙に軽やかでポップな仕上がりを見せる『ヴァージン・ビューティ』。

心地よい混沌とポップな感覚が絶妙なバランスで融合した『ヴァージン・ビューティ』は、まぎれもなくコールマンが長年追求してきたであろう“ズレの調和”が理想的なカタチとなり結実したものだと感じている。

正直言って、これ以降のエレクトリック楽器を使ったコールマンのアルバムは、このアルバムのサウンドよりも、さらに軽やかかつスッキリで、いかんせんスッキリと整理され過ぎな感が無きにしもあらず。

聴きやすさは増したかもしれないが、混沌、それも『フリー・ジャズ』的なグジャグジャな混沌ではなく、『ヴァージン・ビューティ』的、ポップな混沌は影を潜めている。

ズレ、軽やかさ、混沌、ポップ、ノリ。
すべてがバランスよく奇跡的に調和したのが本作なのだ。

オーネット・コールマン未聴の方は、真っ先に飛びつくべき、親しみやすく楽しいアルバムだ。

記:2007/01/08

album data

VIRGIN BEAUTY (Portrait)
- Ornette Coleman & Prime Time

1.3 Wishes
2.Bourgeois Boogie
3.Happy Hour
4.Virgin Beauty
5.Healing The Feeling
6.Singing In The Shower
7.Desert Players
8.Honeymooners
9.Chanting
10.Spelling the Alphabet
11.Unknown Artist

Ornette Coleman (as,vln,tp)
Jerry Garcia (g)
Charlee Ellerbe (g)
Bern Nix (g)
Al McDowell (el-b)
Chris Walker (el-b)
Calvin Weston (ds)
Denardo Coleman (ds,key,per)

Released:1988

 - ジャズ