ウェザー・リポート/ウェザー・リポート
「ビッチェズ」好きにもたまらんサウンド
何かの始まりを予感させる厳かかつミステリアスな一曲目、《ミルキー・ウェイ》から、このアルバムの世界に没入してしまう自分がいる。
ウェイン・ショーターがサックスで吹く音は、たった1音。
ぷっ!
たったこの一音だけでショーターの存在感が脳裏に深く刻まれてしまうという恐ろしい一音でもある。
「ウェザーに在籍している頃のショーターは、アンサンブルの一要員になってしまったかのようで、たっぷりとショーターのサックスを楽しめなくなった」
そうボヤくの「真性ショーターファン」もいるが、このファースト・アルバムでは、まだショーターのミステリアスなソプラノサックスを十分に味わえるナンバーもある。
3曲目の《セヴンス・アロー》がそうだ。
エレクトリック・マイルス、特に『ビッチェズ・ブリュー』前後のマイルスの「あのテイスト」が好きな人にとっては、耳からヨダレが出そうな興奮ナンバーなのではないだろうか。
アルフォンソ・ムーザンの重たく疾走するドラミングは、ジャック・ディジョネットを彷彿とさせるし、ジョー・ザヴィヌルのエレピのバッキングは、まるで『ビッチェズ・ブリュー』だ。
もっとも、このナンバーはベースのミロスラフ・ヴィトウスが作曲したものだが、脈打つリズムと特徴あるエレピのバッキングがエレクトリック・マイルスを連想させてしまうのだろう。
ザヴィヌルは、『ビッチェズ・ブリュー』に参加しているし、《ファラオの踊り》などの重要曲も提供するなど、当時のマイルスにはなくてはならない重要要員でもあったわけだから、当然といえば当然なんだけど、この『ウェザー・リポート』を聴けば聴くほど、『ビッチェズ・ブリュー』へのザヴィヌルの貢献度の大きさが分かる。
と同時に、『ビッチェズ・ブリュー』でマイルスが描き出した壮大でミステリアスな音楽的世界観をザヴィヌルも受け継いでいるかのようで、大人数編成で繰り広げられた『ビッチェズ』の世界を少数精鋭のコンパクトなバンド編成で再現しようという意図も初期のウェザーにはあったのだろう。
『ビッチェズ~』のみならず、『イン・ア・サイレント・ウェイ』のタイトル曲もジョー・ザヴィヌルのペンによる作品だが、この曲の旋律は、オーストリア出身のザヴィヌルにしか描きえないヨーロッパの自然を彷彿とさせるナンバーだった。
この柔らかくも透明で奥行きのある音世界は、従来のマイルスのサウンドには感じとれない新境地だったが、このテイストが好きな人は、アルバム中盤の《モーニング・レイク》や《ウォーター・フォール》も楽しめると思う。
「でもやっぱり4ビートを聴きたい!」
そいいう人は、ラストの《ユリディス》に飛んでみよう。
ミロスラフ・ヴィトウスの強靭なベースが、ぐいぐいと4ビートを刻む。
ベースにからむドラムやパーカッションのリズムは、少し変則的でオーソドックスな4ビートではないかもしれないが、太くて脈打つヴィトウスのベースが聴けるだけでも、かなりの満腹感を味わえるのではないだろうか。
後にベースがジャコ・パストリアスやヴィクター・ベイリーに代わり、ポップでフュージョンなバンドというイメージが強くなったウェザー・リポートかもしれないが、ジャズの匂いとミステリアスさがパッケージされた1枚目のサウンドの新鮮さは、時代が変われど、その魅力は色褪せることはない。
記:2015/07/13
ウェザーのコアなファンには、この1枚目がもっとも好きだという人が多いのも頷ける。
album data
Weather Report (Columbia)
- Weather Report
1.Milky Way
2.Umbrellas
3.Seventh Arrow
4.Orange Lady
5.Morning Lake
6.Waterfall
7.Tears
8.Eurydice
Joe Zawinul (elp,p)
Wayne Shorter (ss,ts)
Miroslav Vitous (b,el-b)
Alphonse Mouzon (ds,voice)
Airto Moreira (per)
Barbara Burton (per)
Don Alias (per)