ポートレイツ・オブ・セロニアス/ランディ・ウェストン

      2022/08/29

シンプルで力強い作品

モンクとエリントンを尊敬してやまないピアニスト、ランディ・ウエストンの『ポートレイト・オブ・セロニアス・モンク』は傑作アルバムだ。

ドラムとパーカッションのウネりまくる強力なビートをバックに、ランディ・ウエストンのシンプルでツボを押さえたピアノ。
贅肉をギリギリまで削ぎ落とした音数と、それを裏付けるかのような自信に満ちた強靭なタッチ。
シンプルな力強さに満ち溢れた作品だ。

スタイルの理解から表出するオリジナリティ

思うに、彼はモンクの曲の構造を完璧に把握しているのだろう。

モンクを理解した上での彼なりの表現。
それは曲の骨子を丹念に抽出し、モンクという「構造」を浮き彫りにすることだ。

モンクは余計な音は一切弾かないピアニストだが、ウエストンはもっと弾かない。
というよりも、一つの音に情報を圧縮する。

だから、最小限の音数でモンクの「構造」が露わになる。
あとは溢れんばかりのリズムの洪水に乗ってどす黒いピアノを弾けばよい。

モンクにも通じる彼独特の「間」を持つ彼。

だから、無理して弾きまくる必要はこれっぽちもないのだ。圧倒的なドラムとパーカッションのリズムのウネリが「間」を存分に埋めてくれている。

たとえば、リズムの洪水の中で、音符の数を節約して、かわりに一音にモンクのオリジナルの暗示をこめて浮き彫りになってゆく《ウェル・ユー・ニードント》。
同じく、絶え間ないパーカッションの間を縫うように独特のアーティキュレーションで奏でられる《ミステリオーソ》。

乾いたアフリカの大地を思わせる、艶と湿り気の要素を原曲から注意深く取り除いた《ルビー・マイ・ディア》。

アルバム中では、最もモンク的な演奏にもかかわらず、音色と間の違いが非モンク的な《アイ・ミーン・ユー》。

まるで、モンクは彼が弾くことを想定して作曲したんじゃないかと思わせるほど、ランディ・ウェストンのピアノのスタイルとピッタリ合致している《ファンクショネル》。

ギラリと重たい低音部の打鍵が、よりオリジナルをダークに感じさせる《オフ・マイナー》と《セロニアス》のピアノソロ。

最もモンクらしく、最もモンクから離れた地点での表現へ到達したピアニスト、それがランディ・ウエストンだ。

記:2002/10/20

album data

PORTRAITS OF THELONIOUS MONK (Verve)
- Randy Weston

1.Well You Needn't
2.Misterioso
3.Ruby My Dear
4.I Mean You
5.Functional
6.Off Minor/Thelonious

Randy Weston (p)
Jamil Nasser (b)
Idris Mulhammad (ds)
Eric Asante (per)

1989/06/03 at Studio Ferber,Paris France

Portraits of Monk
Verve

 - ジャズ