ワーク・ソング/ナット・アダレイ

   

さくさく聴ける軽快かつグルーヴィな名盤

土臭いアルバムだ。

ほこりっぽい土を連想させるサウンド。

この土臭さを一層際だたせているのが、サム・ジョーンズのチェロ。

チェロといえば、バッハの「無伴奏チェロ」のように、優雅で豊饒な音色を連想する楽器だが、弓弾きではなく、ピチカート(指弾き)で、ちょっとあやふやな音程で奏でられるチェロの音色は、本当に同じ楽器なのかと思うぐらい、違う表情をみせる。

この指弾きのチェロの音色に、ナット・アダレイのミュートを効かせたコルネットがブレンドされると、単にファンキーという一言では片付けられない、ちょっとしんみりして、それでいて素朴な味わいが出てくるのだから面白い。

サム・ジョーンズがピチカートでチェロを奏でている曲に感じる「土臭さ」は、コルネットやギターの音色にチェロの音がブレンドされた効果なのかもしれない。

ナット・アダレイのコルネットは、決してスケールが大きいとはいえない。

ちょっと詰まったような独特な音色が特徴で、楽器全体を鳴らしきっていないのかな?という感じもするし、音程も少し怪しかったりもする。

だからといって、それが欠点だとは思わない。

特にミュートをつけたときのプレイに顕著だが、小ぶりながらも、どこかピリッとスパイスを効かせたような味わいがある。

小ぶりだが、軽妙で機動力があるのだ。

そして、このアルバム全編に貫かれているトーンが、まさにそれなのだ。

《ワーク・ソング》は、ナットが兄のキャノンボールとコンボを組んでいたときに作曲された。

兄のファンキーなフィーリングに触発されたのだろうか、彼の書いた《ワーク・ソング》も、負けずにファンキー。

しかも、ゴスペルに根ざした単純素朴だが、力強いフィーリングに満ちている。

後に、さまざまなミュージシャンが取り上げたり(CMにも使われた)、歌詞がつけられたりもしたので、耳にしたことのある人も多いと思う。

それどころか、一度耳にすると、なかなか忘れることが出来ないほど覚えやすい曲だ。

このアルバムの演奏が、《ワーク・ソング》の初演だ。

ウエスのギター・ソロ、そして、まさにこのような曲にはうってつけの適役、ボビー・ティモンズのピアノ・ソロが的確に曲の核心を捉えている。

最初はキャッチーな《ワーク・ソング》に耳が吸い寄せられていたが、最近の個人的な愛聴曲は、2曲目の《プリティ・メモリー》と、3曲目の《アイブ・ゴット・ア・クラッシュ・オン・ユー》だ。

この二曲目から三曲目への流れも良いと思う。

哀愁感漂うメロディと雰囲気が絶品。

「小粒ながらも、良い味を出している」という私の感想が、決して悪い意味ではないということは、この2曲を聴けば、納得していただけるのではないだろうか?

このアルバムの良いところは、曲の演奏時間が短く、コンパクトにまとまっていること。

さながら性能と燃費の良い小型自動車のようでもある。

もう少し聴きたいな、と思ったところで演奏が終わるので、最初から最後まで飽きることなく聴き通すことが出来る。

入門者も安心して聴けるアルバムだと思う。

記:2002/04/04

album data

WORK SONG (Riverside)
- Nat Adderley

1.Work Song
2.Pretty Memory
3.I've Got A Crash On You
4.Mean To Me
5.Fallout
6.Sack Of Woe
7.My Heart Stood Still
8.Violets For Your Furs
9.Scrambled Eggs

Nat Adderley (cor)
Wes Montgomery (g)
Bobby Timons(p)
Sam Jones (cello&b)
Keter Betts (b)
Louis Hayes (ds)

1960/01/25,27

 - ジャズ