出版界の「名伯楽」が放つ中山康樹さんの遺作『ウィントン・マルサリスは本当にジャズを殺したのか?』
ようやく気持ちが整ってきたので、これから読み始めようかと思います。
故・中山康樹さん最後の著作『ウィントン・マルサリスは本当にジャズを殺したのか?』。
中山康樹氏といえば、自他ともに認める「日本一のマイルス者」でした。
この「マイルス者」を決定づけたのが、アップデートを繰り返していた人気本『マイルスを聴け!』と、デビュー作でもある『マイルス自伝』です。
今は亡き『スウィング・ジャーナル』の編集長だった中山さんが、スウィング・ジャーナル社を退職後の最初の仕事が『マイルス・デイヴィス自叙伝』の翻訳でした。
この本を出版する際、中山さんに企画を持ち込み、中山さんに仕事を依頼した編集者が富永虔一郎氏です。
出版業界では、知る人ぞ知る「名伯楽」と呼ばれた編集者で、私が敬愛する大先輩でもあるのですが、まさに「中山康樹という才能」を野には放った人物が富永さんといっても良いでしょう。
私が中山さんと知己を得ることが出来たのも、富永さんの紹介あってのことです。
『マイルス自伝』をはじめ、後藤雅洋氏の『ジャズ・オブ・パラダイス』や、ジャズ喫茶「響」のマスターの本など、当時はイキの良いジャズ本を出していた出版社に私が入社したのも、富永さんが作る本に憧れていたということが大きいです。
なにしろ、私がアルバイトをしていた四谷のジャズ喫茶「いーぐる」のマスターの処女作『ジャズ・オブ・パラダイス』の出版を持ちかけ、編集した編集者も富永氏なのですから。
もちろん本文の執筆は後藤さんではあるのですが、後藤さんの文章をさらに引き締め、私の読書欲にシャープに斬り込んでくる小見出しの付け方のセンスが、フロントを燃え上がらせるフィリー・ジョー・ジョーンズのドラミングに近いものを感じました。
また、これは他の出版社の本ですが「寺島靖国氏vs後藤雅洋」というジャズ喫茶オヤジの対立の構図を演出し、大胆なキャプション付けで、読者の好奇心に火をつけまくるセンスは、マイルスから「マッチの火」と称されたウイントン・ケリーのピアノに近いものを感じました。
今でこそジャズ評論家の第一人者である後藤雅洋氏ですが、当時は「いちジャズ喫茶の店主」でしかなかった「後藤雅洋という存在」を世に知らしめたのも富永氏の功績であると言えましょう。
そして、先日出版された中山さん最後の著書『ウィントン・マルサリスは本当にジャズを殺したのか?』の編集者も富永さん。
作家・中山康樹と、編集者・富永虔一郎。
この二人を敬愛する私としては、もう読まずにはいられませんね。
しかし、だからこそ、この素晴らしい二人のコラボ作品もこれで最後なのかと思うと、なかなか手が伸びずに現在に至ってしまっていたのも事実。
「もうこれで最後なんだ」と思うと、なかなか重い腰、ではなく、重い手が表紙をめくれなかったのですが、よっしゃー、意を決して読もうという気持ちにようやくなってきたところです。
とはいえ、これから焼肉屋に飲みに出かけなければならないので、本格的に読み始めるのは、明日からかになりそうです。
読み終わったら、感想、またレポートしたいと思います。
【CONTENTS】
序章 「ジャズのない時代」に生れたジャズ・ミュージシャン
第1章 1981年7月、東京
第2章 許されざる黒さ(Unforgivable Blackness)
第3章 クラシック vs ジャズ
第4章 ジャズを知らないジャズ・メッセンジャー
第5章 ウィントン・マルサリスの肖像
第6章 ウィントン・マルサリス作品体系(序)
第7章 ウィントン体制の確立
第8章 ジャズ帝国:ジャズ・アット・リンカーン・センターの歴史と全貌
第9章 「グループ」としての変遷と挑戦
第10章 ウィントン・マルサリスが変えたもの
第11章 そして誰もいなくなった?
第12章 アメリカン・ミュージックとしてのジャズ
終章 ウィントン・マルサリスはジャズを殺したのか
コンテンツを眺めるだけでも、なかなかそそりますよね〜。
また帯のコピーもそそります。
日本ジャズファンへの「遺言」
「マイルス・デイヴィスに最も近い日本人」と言われ、マイルスに関する多くの著書を書き続けた中山康樹が急逝。
あとに残された原稿は、意外にもウィントン・マルサリスのジャズを論じたものだった。日本のジャズファンが忘れ去った天才に、中山が最後にこだわったのはなぜか? ウィントンのなにが、病床の中山を鼓舞したのか? この「謎」は解けるのか?
ジャズファンは、全員読もう!
記:2015/08/03
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