スタンダード・ライヴ/ウイントン・マルサリス

   

すごい熱気とパワー

熱き音撃だ。

しかも、こちらに直撃するは、鈍い鉄の音。

鈍い鉄だから、鈍鉄(ニブテツ)。

ウイントン放つ渾身のラッパの音色は、まさにニブテツという言葉が相応しい。

分厚い鉄をグッと千切るような音。
決して煌びやかではなく、むりそ、その反対。
つや消しの魅力。

キラキラとした輝きはないかわりに、奥底からにじみでる「いぶし銀」な風合い。

このようなニブテツが、単純な一音をメリハリをつけてグッと重く吹くウイントン。

ノリも抜群で、演奏から感じられる熱気、パワーは原始的で野蛮なパワーすら感じる。

野蛮なパワーと、それを完璧に統御するウイントンの知性と、音楽ヂカラ。

これは、そうとうにパワフルかつエネルギッシュなライブだ。

それは、観客の拍手や掛け声が証明している。

いたるところで、放たれる歓声。

いや、歓声というよりも、本能的に放たれる動物の叫びにも通ずる、衝動と生々しさを感じる。

ライブハウスは、ものすごい熱気だったに違いない。

そして、この熱演。もし私がその場にいたら酸欠になっていたかもしれない。

その発言や思想などで、様々な物議をかもしているウイントン。

しかし、言葉や思想云々抜きで、トランペットと真剣に向かい合えば、こんなに強い音を放つジャズマンなんだということを、まざまざと見せつける。

さらに、「まだまだ俺はこんなもんじゃないんだよ」とばかりに、8分の力にセーブして吹いているような余裕すら感じさせるところが、ニクらしいぜ、ウイントン。

演奏の熱気と、会場の熱気がこれほどまでにシンクロした状態が音としてパッキンされているCDも珍しい。

スタイル云々は抜きにして(というより、この熱気の前ではそんなこと考える暇もないが)、音の力強さ、勢さで聴くべきアルバムだ。

タイトルは『ライヴ・アット・ザ・ハウス・トライブス』だが、日本盤のタイトルは『スタンダード・ライヴ』となっている。

彼の代表作『スタンダード・タイム』に引っ掛けたネーミングなのかな?

記:2008/06/12

album data

LIVE AT THE HOUSE OF TRIBES (Bluw Note)
- Wynton Marsalis

1.Green Chimneys
2.Just Friends
3.You Don't Know What Love Is
4.Donna Lee
5.What Is This Thing Called Love?
6.Second Line

Wynton Marsalis (tp)
Wessell "Warmdaddy" Anderson (as)
Eric Lewis (p)
Kengo Nakamura (b)
Joe Farnsworth (ds)
Orlando Q.Rodriguez (per) #1,2,5,6
Robert Rucker (tambourine) #6

2002/12/15

 - ジャズ