セロニアス・モンクを弾く/八木正生

   

さながらモンクの分析研究レポート

学者が書いた論文や学術報告を読んでいるような気分だ。

セロニアス・モンクというジャズの奇才が作り出した曲と、彼の奏法を解析&研究し、モンクの和声感覚、メロディ感覚を追求した結果、このように、モンクそっくりの音楽が生まれました、という研究レポート。

まるで、ウルトラセブンの戦闘データを解析してサロメ星人が作った「にせウルトラセブン」のようだが、このアルバムは違う。

「にせウルトラセブン」は、おなかの部分を除けば、ほとんどウルトラセブンと瓜二つだが、セロニアス・モンクと八木正生の音楽は、明確に区別がつく。

それは、洋服にたとえればわかりやすいと思う。

同じ服が2つあっても、着る人が違えば、同一人物には見えないよね?

それと同じで、いくら八木がモンク風の衣装をまとったところで、立ち表れる音はモンクではないのだ。

ま、それにしても、模倣&応用が得意な日本人なだけあって、「よくぞ、ここまで」と思うほど、モンクのことをよ~く研究している。

たしかに、一瞬モンクかと錯覚してしまう箇所もある。 しかし、両者を明確に区分してやまない要素がある。

リズム感だ。

やっぱりモンクが本質的にもっているヘンテコリンなリズム感覚、もはや“体質”といっても良い部分まで、八木はコピーしていない。

そこまでコピーしても意味がないということを八木自身、レコーディングに臨む際に自覚していたに違いない。

ここが、ポイント。

折り目正しい八木のリズム感覚で弾かれるモンクのナンバーは、「へぇ、モンクの音楽って以外と律儀でキチンとしてるじゃん」と思わせる。

もちろん、キチンと計算さて作られている音楽だからその通りなのだけれども、構造を精緻に見せる八木のピアノに対して、モンクは精巧に作り上げたプラモデルをわざと乱暴にもてあそぶようなところがある。

これが二人の「体質」の違いでもあり、これが音に面白いほど如実に表れているのだから面白い。

生真面目な学者による精緻なモンクのレポートは、難解な『ユリシーズ』を読解するための足がかりとなるガイド本のような役割を果たしている。

単なるモノマネアルバムとして片付けるには勿体無い。

これを聴くことで、私はモンクとの距離が1センチほど縮まった実感を持った。

渡辺貞夫も鳴りの良いアルトで健闘している。

爽やかなアーニー・ヘンリーって感じか。いや、ジジ・グライスか。

モンクのファンで、彼のアルバムを何枚か所有している方は、聴き比べも面白いと思う。

たとえば、《オフマイナー》。

このアルバムと、アート・ブレイキーやコルトレーンらが参加している『モンクス・ミュージック』の同曲と聴き比べてみよう。

あくまで整然とした日本人による折り目正しい明晰な《オフ・マイナー》。

かなりラフでアバウトだけれども、スケール大きく(ブレイキーのドラムによる効果が大きい)、なんだかハラハラした興奮を覚える『モンクス・ミュージック』の《オフ・マイナー》。

本場のジャズと、日本人のジャズの違いが、具体的な音で実感できるはずだ。

もちろん、どちらが良くて、どちらが悪いということではない。
この違いをどう感じるかは、アナタ次第。

そして、このクインテットの演奏を聴き、外側からモンクをなぞることで、より一層モンク理解が深まるのではないかと思う。

記:2007/01/05

album data

MASAO YAGI PLAYS THELONIOUS MONK (King)
- 八木正生

1.Rhythm-A-Ning
2.Off Minor
3.'Round Midnight
4.Misterioso
5.Straight No Chaser
6.Blue Monk
7.Monk's Mood
8.Evidence

八木正生 (p)
中野 彰 (tp)
渡辺貞夫 (as)
原田政長 (b)
田畑貞一 (ds)

1960/07/13 & 14

 - ジャズ