『ざんねんな偉人伝』には、ザンネンじゃない人も紹介されている
富士山も近くで見ると?
たしか脳科学者の中野信子氏が何かで書いていたと思うのだが、「富士山タイプ」の人って、確かにいる。
私の場合は、過去に取材した企業の「名物社長」に、典型的な富士山タイプの人が多かったような気がする。
富士山タイプの人間とは、要するに遠くで見ると富士山は美しい山なのだが、いざ近くに行くとゴミが捨てられていたりして意外と汚いことと同様、一見立派そうに見える人物も、身近で付き合うと欠点が目立つ人物ということ。
(もっとも、世界遺産に指定された前後から、富士山はずいぶんと綺麗になってはいるようだが。)
世界遺産で思い出したが、オーストラリアのオペラハウスも遠くでみるからこそ綺麗な建物のようだ。
実際、そこに行ったことのある人が口々に言っているが、接近してみるとカモメの糞が多く、壁には亀裂が走っていてけっこう汚いようだ。
小学校の時、図書室でさんざん読んできた「偉人さん」たちも、富士山タイプの人物が多いのではないだろうか。
たとえば野口英世の金遣いの荒さ
偉人たちが遺した輝かしい業績のみに焦点をあててみれば、多くの偉人は立派な人たちに見えるだろう。
しかし、いざ実際、私生活やクセ、性格など細かなエピソードを拾い集めると、「ざんねん」なことも多い。
有名なのは、野口英世の金遣いの荒さだろうね。
これは昔から有名だったし、私もそれは小学生向けの伝記で読んだ記憶がある。
たとえば、渡航する前に費用を一晩でパーっと使ってしまったという話など。
このような、世間的には偉人とされている人の「ざんねん」な箇所に焦点をあてたのが本書だ。
すべての人物が「ざんねん」ではない
サブタイトルに「それでも愛すべき人々」とあるように、単に偉人の欠点をあげつらうだけではなく、偉人達の業績は重々認めつつも、こんなザンネンな一面もあったんですよ~的な紹介も少なくない。
また、与謝野晶子のように全然「ざんねん」ではない人もいる。
彼女の場合は、世間的なイメージとは違うという内容だ。
13人も子どもを産み、育て、さらに5万首もの歌を詠んでいる。
⇒知らなかった!
さらに、教科書では反戦の歌を詠んだ人となっているが(「君死にたまふことなかれ」)、太平洋戦争の時は「わが四郎 み軍(いくさ)に征(ゆ)く 猛(たけ)く戦え」という、戦地に赴く四男に向けて読んだイケイケな歌も詠んでいたという。
⇒これも知らなかった!
マリー・アントワネットに関しての記述もそうだが、「ざんねん」な内容ではなく、世間が抱くイメージを覆す内容も記載されているので、「またザンネンな話か~」とウンザリすることなく読めるメリハリのある編集となっている。
昔からあった似た切り口の本
一読した感想は、小学生の時に読んだ矢野健太郎の『すばらしい数学者たち』や『ゆかいな数学者たち』を思い出した。
たとえば、有名なアルキメデスの「ユーレカ(あるいはユリイカ/分かったぞ)!」と叫んで全裸で町中を走り回ったとか、ニュートンが考えることに没頭していて沸騰したお湯に卵ではなく懐中時計を入れた話など。
私はこの本を何度も繰り返し読んでいたため、数学者の常人とはちょっと違う言動を面白いエピソードとして読み、算数は嫌いだったけど、数学者たちは微笑ましくて面白い人たちだなと思って読んでいた。
これは、矢野健太郎氏の筆力のお陰でもあるのだが、このような下地があったからかどうかは分からないが、この本もクスりと笑いながら読むことが出来た。
「ざんねんな生き物」
おそらくは、いま売れている『ざんねんないきもの事典』の二匹目のどじょうを狙った企画本なのだろう。
しかし、この本にはこの本なりの面白さがあるし、なにしろ挿入されている偉人たちの劇画タッチのイラストが力強くてなんとも良い味わいを出している。
取り上げられている偉人は、以下のとおり。
エジソン、ニュートン、モーツァルト、織田信長、豊臣秀吉、野口英世、太宰治、芥川龍之介、ピカソ、ミケランジェロ、カール・マルクス、石川啄木、リンカーン、ファーブル、アンデルセン、坂本龍馬、福沢諭吉、宮本武蔵、ナイチンゲール、クラーク博士、西郷隆盛、宮沢賢治、川端康成、マリー・アントワネット、勝海舟、藤原道長、与謝野晶子、高杉晋作、江戸川乱歩、夏目漱石、森鴎外、アインシュタイン、ベートーヴェン、カント、ピタゴラス、サルバドール・ダリ、カフカ、武田信玄、ナポレオン、ノーベル、ダーウィン、ソクラテス、ゲーテ、徳川家康、紫式部、清少納言、中原中也、葛飾北斎、種田山頭火、岡倉天心、南方熊楠、湯川秀樹、キュリー夫人、菅原道真、始皇帝、アガサ・クリスティ、大村益次郎、大久保利通、レオナルド・ダ・ヴィンチ、マゼラン、平塚らいてう、バッハ、平賀源内、グラハム・ベル
気になる人から気楽に読んでいこう!
記:2017/11/30