ズート・シムズ~サムシング・エルスなテナーマン~
text:高良俊礼(Sounds Pal)
ズートの音色
ズート・シムズの「ズート」。
「聴いてて落ち着くジャズ」
「ホッとするジャズ」
あるいは「通好みジャズ」の代名詞みたいな一枚である。
何と言ってもズートの、まろやかながら芯のあるテナー・サックスの音色。
「ぷわ~・・・」とひと吹きするだけで、鳴っている全ての音が、渋~いイカした”ジャズ”になってしまう、無駄なもの、余分なものが一切ない、正々堂々のモダン・ジャズ。
それだけじゃなくて、多くの“遊び心”も内に秘める、何とも懐の深い音色。
今の時代のテナー吹きに「これより上手に吹いてごらん」と言われれば、そりゃあ上手に吹く人は無限におるでしょうが「こんな豊かな音色で、色気を出して吹いてごらん」と言ったらば・・・?果たしてどれぐらいの人が吹けるだろう。
テクとか機材云々以前に、どんだけ深い人生を歩んできたか?とか、そういう資質が問われそうな音色なのだ。
人生の渋み サムシング・エルス
破天荒で、大酒飲みで、酒にまつわる「あぁやっちゃった」というエピソードには事欠かないズート。
でも、どの時期のどのアルバムでも、演奏的な破綻は一切感じさせない。
多分だが、彼の「大人な演奏」には、彼が大酒で無理矢理誤魔化して、押し殺していた人生の渋み、深み、その他のエッセンスが凝縮されているんだろう。
だからズートのプレイは深い。
理屈ではないサムシング・エルスの部分が、人を感動させるのだ。
ズート
このアルバムは1956年に録音された、彼の代表作。
ジャズの奥深さ、耳に優しく入ってじわじわ染みる生音の暖かさに浸りたい方は、このアルバム収録の《ザ・マン・アイ・ラヴ》をまずは聴いてほしい。
「ズズズ~・・・」と、吐息の音も絡めながら、悠然と唄うズートのテナーは「大人の味わい」の一言。
「ジャズ」という言葉に特別な思い入れがある人を、更に上質な”酔い”へいざない、ジャズを知らない人をも心地良く酔わせてくれる至福の名演だ。
記:2015/11/08
text by
●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル)