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ジャズと映画と本の日々:高野雲

オールド・プレシジョン購入記 ~念願の65年モノのプレシジョンを買った。

      2017/09/25

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65 precision

5台目のプレシジョンベース

新しいベースを買った。
プレシジョンベースだ。
プレシジョンベースを買うのは、たしか、これで5台目だ。

年末に1万円台の激安プレシジョンを購入して、しばらくは改造して遊んだり、試しにライブで使ってみたりしたが、どうも痒いところが自分の好みと合わなかった。

音のほうは個人的には合格点だし、鮮やかなまっ黄色のボディ色はかなりのインパクトで、非常によく目立つ上に、ヒョウタンのように丸っこいプレシジョンのボディの形をより一層可愛く映えさせていた。

ルックスとコンディションには問題が無いとして、では何が問題なのかというと、ネックのコンディショだ。

新品ゆえのサガか、それとも格安ゆえに材に問題があるのか、すぐに順反りをしてしまうのだ。

もちろん、トランスロッドを回して調整をすれば、しばらくは元の状態がキープされるが、しばらくすると元の木阿弥。おそらく、指板のローズウッドのコンディションが不安定だからなのだと思う。

つまり、大してシーズニングが施されていない状態の木材がネックに貼り付けられたのではないかという疑い。

このような木材は、充分に水分が抜けていないがゆえに、収縮や膨張を繰り返す。このような不安定な状態の木材がネックに貼り付けられてしまうと、いくらネックの材が頑強でも、指板の木が収縮しようとする力に引っ張られて順反りしてしまうのだ。

これは、私の買った安いベースだけに限った話ではなく、フェンダーの66年以降のベースにも見られる傾向らしく、だから私がオールドにこだわる理由の一つとなっている(理由は後述)。

このようなコンディションの何が問題なのかというと、まず、指板にデッドポイントが生じる。

具体的にいうと、私のベースの場合は、2弦の10フレットや1弦の14フレットあたりがデッドポイントになりやすかった。

ハイポジションを弾いたときの、予期せぬビビリや、抜けない音は弾いていてかなり不愉快な気分になる。

もっとも、デッドポイントに関しては、その場所さえ把握しておけば、“そこの場所はなるべく弾かない”というワザで逃げ切ることも出来るが、もう一つの重大な問題があった。

それは、チューニングがすぐに狂うということ。

せっかく合わせたチューニングも、数曲弾いて狂ってしまうようでは、とてもライブでは安心して使うことが出来ない。

なので、この黄色いプレシジョンベース、飲み屋の置きベースとして持っているのも悪くはないとは思ったが、結局は次のベース購入のための下取りに出してしまった。



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新しいオールドについて

今回新たに購入したプレシジョンについて書いてみる。

前回の激安ベース購入の反動で、今回は高い買い物だ。前回の1万円代に対して、今回は60万円代。まぁ50万円台後半まで値切ったけどね。

今回の購入したのはは、65年のもの。
嗚呼、65年以前のハカランダ指板のプレシジョン、欲しかったのよ~。

色は白、といっても、日灼けやタバコのヤニなどで、ほとんど黄色というかクリーム色だが……。

ピックガードはべっ甲だが、ところどころが欠けていたり、ヘンに盛り上がったりしていたりと、かなりオンボロ度が高い。まぁ、そこが値切りのポイントになったわけだが。

シリアルナンバーがL77793。ヘッドさんざめくトランジョン・ロゴ。指板はもちろん、ハカランダ。

ハカランダ

ハカランダ指板はいいよ~。

いや、ハカランダという“材”が良いというよりも、厳密に言うと、“ハカランダが使用されている時代のフェンダーのベース”は良いよ~、ということなのだが。

私が所有しているもう1本のオールドは、65年製のジャズ・ベースだが、このベースに触れて以来、指板はハカランダに限るわい!という妙な信念が芽生えてしまっている。

それほど、この材が指板として使用されている時代のベースは、音の立ち上がりと絞まりが素晴らしいのだ。

私はベースの良し悪しを決める最大のポイントはネックだと思っている。さらに突き詰めて極論してしまえば、良し悪しは指板次第。

先述したとおり、指板のコンディションが悪いとネックの反りに大きな影響を与えかねない。

そして、残念ながらハカランダは65年にワシントン条約で伐採が禁止されてしまっているので、現在は手に入らない(特殊なルートを使えば手に入らないことはないけれども、モノスゴく高くつく)。

よって、66年以降のフェンダーのベースの指板にはハカランダではなく、インディアナ・ローズウッドが使われることになる。

専門家によれば、ハカランダ(ブラジリアン・ローズ・ウッド)とインディアナ・ローズウッドの材としてのクオリティの差はほとんど無いそうだ。だから、ハカランダの使用が直接音の良し悪しにどれほどの影響を与えているのかどうかは分からない。

では、なぜハカランダを使用出来た年までのフェンダーがなぜ良いのかというと、65年という年を境に、フェンダーという会社の製造体制が大きく変わったことによる。 

CBS社への会社売却による大量生産体制だ。

つまり、従来は少数の本数を厳選した材で作られていた生産体制が、大量生産体制に代わったため、使用する材の選別基準も甘くなった。…のではないのかな、推測だけど、というのが、あるリペアマンのお話。

あくまで、推測の域は出ないが、その人の話によると、65年以前のフェンダーのベースにはネックのトラブルがほとんど無いが、66年以降になると増えるというのだ。

14フレットあたりにデッドポイントは生じるベースが多いわ、指板がネックを引っ張るゆえか、順反りが多発するわで、おそらくこれは指板の材のシーズニングに問題があるからだという。

それが証拠に、試みにインディアナ・ローズウッドの指板を外して、ハカランダの指板をネックに貼り付けてみると、ネックの反りの問題がピッタリと解消されるというから、明らかに指板のローズウッドがネックの反りに影響を与えていることはたしか。

ハカランダだから収縮しなくて良いのか、66年以降の材選びの基準が甘くなったからかは分からないが、とにかく、フェンダーのベースは、65年と66年の生産では、たった一年の差でも、“材”と“生産体制”という二つの大きな変化があったがために、楽器の性能、そして値段が大きく変わってしまうのだ。66年ものから値段がガクッと下がるのはそのためだ。

逆に言えば、このような現象が起きない66年以降のインディアナローズウッド指板のベースは“アタリ”だと言える。

私はモノグサで、非常に怠け者な人間なので、ベースに対しては“いつも同じ状態・同じコンディション”を求める。

雨の日と晴れの日で弾きやすさが変わるのはイヤだし、梅雨のシーズンに湿気を気にするのも面倒くさい。

いつだって、自分好みにカスタマイズされたコンディションのままでベースを弾きたい。

さらには、ちょっと極端だが、調子にのってステージの上でベースを落としてしまっても、大してバランスの変わらない状態でいて欲しい。

そんな自分勝手な欲望をかなえてくれるのが、65年以前のフェンダーベースと言える。

実際、木が落ち着いているし、厳選された材が使用されているので、滅多なことでバランスは狂わない。冗談だと思うが、楽器屋さんからも「落としても大丈夫ですからね(笑)」と言われる(そのくせ、本当に落としてメンテに持ってゆくと「あらら、なんと寂しいことを…」と言われてしまう)。

しかも、音も良いし、美術品のように酒を飲みながらの鑑賞にも耐えうる味のあるルックス。

もう中毒になっているのだが、オールドはやっぱり良いことづくめ。

高いという難点があるにはあるが、一生モノだし、たいがいのオールドショップならば、修理もメンテも無料なので、それを考えれば安い買い物とも考えられなくない。少なくとも中途半端に高い楽器を何本も買うよりはずっと経済的だ。

もっとも、一生モノなどと言いつつも私はオールドを売ったり買ったりを繰り返しているが…。“少しでも良い音”、“少しでも弾き易いコンディション”、“少しでも愛着が深くなるもの”と飽く無き欲望を追求中といったところか…。

迷いに迷った末に

さて、今回65年のプレシジョンを購入するにあたって、私はたっぷり3時間迷った。

65年モノのプレシジョンは、この日、店に大量に入荷していて、たしか5本ぐらいディスプレイされていた。

一本は限定生産のレアカラーモデルで70万以上の値札が貼られていたが、これは最初から対象外とした。青緑色にべっ甲のピックガードというルックスが限定生産モデルの特徴のようだが、色が好みではないわりに値段が高かったからだ。

もう一本のキャンディアップルレッドの65年ものは売約済みの札が貼ってあった。店員によると、ピックアップがセイモア・ダンカンのベースラインに改造されているので値段自体は価値が下がるので非常に安いのだという。

チッ!改造されていてもいいから、売約されていなかったら試奏してみたかったぜ。

仕方ないので、残りの3本から選ぶことにする。
残りの3本の塗装は、サンバーストが1本に、白が2本。

まずは、サンバーストから。

このサンバーストは、いわゆる“ミント”ってやつで、ほとんど新品同様。「コレ、オールドです」と言っても誰も信じてくれないほどのピカピカのルックス。もちろん塗装はリフィニッシュされていないそうだ。

21世紀になった現在、まだ人類が月にも行ってないし、ウルトラマンも放映されていなかった時代に作られた40年も前のベースが新品同様で私の目の前に現れるなんてちょっとした奇跡だと思った。

まずは、これを試奏。

うーん、スゴイ!斬れ味と反応が抜群の64万8千円。音の絞まりが尋常ではなく、トーンを上げてリアで弾くと、ほとんどジャズベースのような音色だ。

次に、白1を試奏。

あれ?先ほど弾いたサンバーストものに比べると音がモコモコとこもった感じだ。もっとも、こちらのほうが私が抱いているプレシジョンのイメージの音に近い。しかし、試奏したりいじっているうちにペグの部分に“遊び”があってユルユルなことを発見した。

店員にそのことを告げると、「すぐに直します!」
このベースを持ってリペア室へ消えていった。

お次は、白2の試奏。
うわぁ、これはスゴイ!
バキッ!ボキッ!ブキッ!!
音の暴れ具合というか、音の尖がり具合がスゴイ。アタックも強烈で、昔私が持っていた57年のプレシジョンに限りなく近い音色。

でも、最初に弾いたサンバーストのものとは対極に近いほど凶暴な音色に驚き。

というよりも、同じ65年生産の同じモデルのベースでも、これほどまでに個体差があるということに驚いた。

個人的には、最初に弾いたサンバーストが良いかなと最初に思った。

様々なタイプの音楽に無難にフィットしそうなので、3本の中では一番“つぶし”が効くと思ったからだ。

しかし、再び弾きながら考え直したことは、これってあんまり自分の中では“プレシジョンを弾いている”って感じがしないってこと。
これを弾いている手ごたえは、まるで家にあるジャズベースではないか。

同じような手ごたえのベースを2台持っていても仕方が無いかもな、などと思っているうちに、先ほどの白1がリペアルームでメンテが終了した状態で戻ってきた。

「ネックが反ってたので、ネックも直してきました」とのこと。
再び白2を弾いてみる。
ネックの状態が修正されただけで、こうまで音のヌケが良くなるのかと驚いた。

最初に抱いたモコッとした印象が消えて、むしろ低音が低い位置で心地よく空気を這っているような感じ。ちょこっと調整をかけるだけでこうも音が変わるのならば、白2のほうもリペアしてもらおう。

せっかく高い買い物をするわけだから、リペア完了の状態という同一条件下でじっくりと比較してみたいと思ったからだ。
店員に白2も同じようにリペアして欲しいと頼んだ。

白2をリペアしてもらっている間、私はとっかえひっかえ、とり憑かれたように白1とサンバーストを試奏しつづけた。

この時点で、試奏時間は優に1時間は過ぎていたと思う。

ときおり、間違ってオールドギターのコーナーにまぎれて入ってきた大学生のグループが「わー、あそこのおっちゃん60万のベース弾いてるよ、俺は怖くて弾けねぇ~」などと言って帰っていったりもしたが、そんな冷やかしなどほとんど頭にはいってこないほど、夢中になって2台のベースの試奏を繰り返していた。

白2のリペアも終了したので、再び弾いてみたが、弾いた感じのニュアンスがまた少し変わっていた。音の伸びが気持ちよくなって、先ほどのゴキッ!ベキッ!の成分が少なくなっていた。音のアタック感にはスゴイものがあるが。

とっかえひっかえベースを鳴らし、さんざん迷った末、まずはサンバーストは選択肢から外すことにした。

サンバーストという色に若干飽きがきていたこと(家にあるジャズベースもサンバーストだし、これまでのベース遍歴の中で最も多い塗装だったからね)もあるが、やはり何度も弾いたすえ、この弾き心地、この音色だったら、持っているジャズベースを弾けばよいではないかという結論に落ち着いたからだ。

あとは、白1と白2の比較。

シールドを抜いては挿し、挿しては抜きを何度も繰り返し、どちらにしようかと悩みに悩んだ。

両方とも外観的には良い具合でボロボロになっていたが、白2のほうがピックガードの痛み具合が激しい。

別にルックスで選ぶわけではないが、ボロボロの外観と、ガキッ!ゴキッ!の音のアタックと腰がとても似合っていると思った。

もういいや、どちらも捨てがたい音色なんだから、あとは外観や自分の直感を頼りにするしかあるめぇ。えいやっ!とばかりに白2を購入することに決めた。
この決断までに何時間かかったことやら。

私のワガママにとことん付き合ってくれた店員の根気と、私の脇で黙々と『プレイヤー』誌のページをめくりながら待っていてくれた息子には頭が下がる思いだ。

そういえば、『プレイヤー』といえば、息子がこの雑誌のバックナンバーの「大村憲司追悼特集」をじっと見ていたのに気がついた店員が教えてくれたのだが、先日、大村夫人が生前に夫が使っていたフェンダーのジャズマスターを二台売りにきたのだそうだ。

帰り際にディスプレイされているのを見たが、非常に綺麗な状態だった。

『プレイヤー』には彼が所有していた様々なギターのコレクションが写真で紹介されていたが、オールドを除けばどれもがとても綺麗な保存状態。彼の人柄がギターの状態からしのばれるような気がした。

というわけで、久々にデッカい買い物をしてしまった。

念願のハカランダ指板のプレシジョンを手に入れた喜びは大きいが、実は家に帰ってからはあまり弾いていない。なぜなら、今これを書いているから(笑)。

そろそろ書き終わりそうなので、これをアップしたら、たっぷりと可愛がってやろう。

記:2003/05/03(from「ベース馬鹿見参!」)

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