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ジャズと映画とプラモの日々:高野雲

ラジオのように/ブリジット・フォンテーヌ

   

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Comme à la radio

不思議な静寂さ

学生時代、こればかり繰り返して聴いていた時期がある。

ブリジット・フォンテーヌの呟くようなヴォーカル(とヴォイス)、それを控えめかつ的確に際立たせるアート・アンサンブル・オブ・シカゴ(以下A.E.O.C.)の演奏。

この異なる個性が融合すると、不思議な静謐さが生まれる。
静謐であり、静寂でもある。
いずれにしても、少なくとも私の場合はこのアルバムからは静けさを感じる。

「無音状態」の静寂さよりも、彼女の印象的な声色と、まるで遠くから聞こえてくるような熱狂的だけれども奇妙な静けさをたたえたA.E.O.C.の音がブレンドされて形作られた独自空間のほうが、よほど静けさを感じる。



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青臭く恥ずかしい過去

この不思議な静けさの感触を繰り返し味わいたくて、学生時代の私は、何度もこのCDをリピートさせる日が続いていた。

若さゆえの、青臭いナルシスティックなマインドも多分にあったのだと思う。

今考えると、かなり恥ずかしいが、当時の私はニヒルな厭世家を気取っていたところがある。

そのような私が「つまらねぇ」と感じていた日常の「ダサい」風景(と当時は感じていた)を、少しでも『ラジオのように』で異化させようというヘンな反抗心も手伝っていたのかもしれない。

もちろん、このアルバムを心の中のささやかな反抗の旗印にしていたわけではない。
しかし、耳から数センチ離れた「すぐそこ」に存在しているかのようなブリジット・フォンテーヌのヴォイスと、霧がかかったようなアレスキーのヴォーカル、そして時に暴力的でありながらも奇妙な静けさをもたたえたA.E.O.C.のアンサンブルが、不思議と当時のささくれ立った私のマインドを心地よく慰撫してくれていたことは確かだ。

このアルバムから漂う「狂気」とまではいかないまでも、常識や理性、モラルなどといった現実社会にはめ込まれた「クソッたれ」な太いネジが外れて、何かどこかが静かに狂っている感じが、荒んだ私の感性とシンクロしていたことは間違いない。

そして、今でも時おりこのアルバムを取り出して聴くたびに、青臭い青春時代の苦い感触が蘇り、懐かしさを感じるとともに、いつまでたっても古びることのない音楽の新鮮さに驚くのだ。

腰の入った粘るベース

このアルバムの要は、あくまで私の個人的な趣味だが、ベースのマラカイ・フェイヴァースにあると思う。

特に2曲目の《短歌II》は、力強いパーカッションと、たった2音の低音の選択肢でグルーヴをさせてしまうマラカイのベース。

この腰のはいった太い低音には心底やられてしまった。

さらに、ヴォーカルとベースのデュオの《私は26歳》には絶望的なほどにノスタルジック。
呟くように、あるいは、何か心の底に沈んだ記憶の断片を手繰り寄せるかのように歌うフォンテーヌ。これにほんの少しだけ遅れて、そして寄り添い、支えるかのように同様のメロディを奏でるマラカイ。

うーん、なんて骨太。

もうそれだけで「何もいらん」と感じるほどのヴォーカルとの素晴らしいコンビネーションだ。

A.E.O.C.の卓越した技量

もちろんタイトル曲《ラジオのように》の、背後で奏でられるA.E.O.C.の管楽器奏者たちのコレクティヴインプロビゼーションも素晴らしく、自由に吹いているようでいて、奇妙に静かに彩っているというそのアンビバレンツなバランス感覚も耳に心地良い。

本当にこの人たちは卓越した楽器操作能力と変幻自在な瞬間即応対応能力を併せ持っていると思う。

このアルバムにしばらく魅せられていた私は、他のブリジット・フォンテーヌの作品にも触手を伸ばし、何枚かのアルバムを買って聴いてみた。

もちろん、彼女が持つ独特な世界を活かすアレンジの作品もあったのだが(たとえば『ブリジット・フォンテーヌは…』のように)、しかし、もっともブリジット・フォンテーヌという稀有な歌い手にもっとも相応しいアンサンブルは、やはりアート・アンサンブルだったのではないかと思っている。

特殊な気分に陥り、その状態を愉しみたい人には、何よりもおススメしたい作品だ。

記:2018/01/20

album data

Comme à la radio (saravah)
- Brigitte Fontaine

1.Comme à la radio (ラジオのように)
2.Tanka II (短歌 II)
3.Le Brouillard (霧)
4.J'ai vingt-six ans (私は26才)
5.L'Été l'été (夏、夏)
6.Encore (まだ)
7.Léo (レオ)
8.Les Petits Chevaux (子馬)
9.Tanka I (短歌 I)
10.Lettre à Monsieur le chef de gare de la Tour Carol (キャロル塔の駅長さんへの手紙 )

Brigitte Fontaine (vo,spoken word)
Areski Belkacem (per,vo)アレスキ・ベルカセム - パーカッション、ボーカル
Art Encemble Of Chicago (Lester Bowie,Joseph Jarman,Roscoe Mitchell,Malachi Favors Maghostus,Famoudou Don Moye)
ほか

Released:1969/11/15

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