アット・ザ・ファイヴ・スポット vol.2 /エリック・ドルフィー

      2021/02/10

Eric Dolphy At The Five Spot, Vol. 2
Eric Dolphy At The Five Spot, Vol.2

息の量が多いフルート(?)

じつはドルフィーって、ものすごい量の息を吹き込んで、フルートを吹いているんだなということに、先日、大音量で《ライク・サムワン・イン・ラヴ》を聴いて、改めて気がついた。

フルートに関しては、まったくのシロートな私なので、果たして、吹き込む息の量に関しての正確な情報は分からないが(結構ツライし、体力使う楽器だということは聞いている)、《ライク・サムワン・イン・ラヴ》の長いイントロを聴いていると、規定の量以上の空気がフルートに送りこまれているんじゃないかと思ってしまう。

重くてスピード感のあるフルート

「小鳥のさえずり」や、「天空に飛翔する」などと形容されることの多いドルフィーのフルート。

言葉上からは、軽やかな印象を受ける。

また、実際の音を聴いても、間違っても「鈍重」という印象からはほど遠い。

ドルフィーがフルートで吹くフレーズの語尾の「ピッ!」の鋭さに気付けば、彼の吹くアルトサックスと同様に、いかに斬れ味と瞬発力に満たされたフルートなのかは分かろうもの。

ところが、ところが。

先日、ようやく気付きましたです。
ドルフィーのフルートの違う側面に。

重いんです。かなり重量感あります。

ベタベタです。

間違っても「鈍重」ではないが。

それなのに、鋭いアタック感と、速いパッセージ、イマジネーション豊かな飛翔感。相矛盾する形容がスッポリと彼のフルートには当てはまってしまうのにはビックリ。

大量に吹き込まれる息と、それにともなって漏れてくる唸り声を聞くだけでも、相当に肺を酷使しているということが分かるが、この重量感ある音色が、信じられないほどのスピード感をともなって疾走する様は、「分厚いけど軽やか」なチャーリー・パーカーのアルト・サックスを彷彿とさせる。

ドルフィーの『ファイヴ・スポット』のvol.2といえば、1曲目の《アグレッション》ばかり聴いて燃えていた私。

しかし、先日、あまり真剣に聴いたことのなかった《ライク・サムワン・イン・ラヴ》によって、新たなドルフィーの音色のヒミツ、いや、謎に気がつくことが出来、ちょっとだけ嬉しい気分だった。

絶妙なアンサンブル

そういえば、この《ライク・サムワン・イン・ラヴ》のまとまってないようで、まとまっている演奏っぷりは、なかなか気持ちが良い。

もっとも、これは、同日のライブを収録した『ファイヴ・スポットvol.1』にも『メモリアル・アルバム』の演奏にも言えることだが。

ミクロな目で見れば、細かな箇所は、いちいちまとまっていない。

拍単位で、リズムがビシッ!と決まるわけでもないし、ピアノのチューニングもかなり狂っている。ブレイクもかなりルーズ。

ところが、マクロな意識で、演奏全体を大きく捉えるイメージで聴くと、あたかも大きな孤を描いた、一枚の大きな曲のイメージが浮かび上がってくるので面白い。

絵でいえば、近くで見ると巨大な絵の具のカタマリがキャンバスに塗りつけてあるだけで、何を描いているのか分からないのだけれども、数メートルバックして、額縁全体を視野に納めるような気分で鑑賞すると、全体像がつかめるといった、そんな感じがする。

先述した「揺れ」や「ブレ」の要素が、とてもうまく演奏に作用しているのだ。

エド・ブラックウェル、リチャード・デイヴィス、マル・ウォルドロンのリズム隊。ブッカー・リトルとエリック・ドルフィーといった今だにアウト・フロントなホーン2名。

彼ら5人によって生み出される絶妙なアンサンブルを、ファイヴ・スポットのライヴ盤以外でも聴いてみたかったと思うのは私だけではあるまい。

album data

ERIC DOLPHY AT THE FIVE SPOT vol.2 (Prestige)
- Eric Dolphy

1.Aggression
2.Like Someone In Love

Eric Dolphy(bcl & fl)
Booker Little(tp)
Mal Waldron(p)
Richard Davis(b)
Ed Blackwell(ds)

1961/07/16

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