ジャッキーズ・バッグ/ジャッキー・マクリーン
ジャズ反抗期
ジャズを聴き始めて2~3年目におこる反抗期的な現象。
いや、それは、もしかしたら私だけだったのかもしれないが……、ハードバップならではの、特有の引きずるようなリズム感や、2管(あるいは3管)のアンサンブルが奏でる甘めのメロディが突然ダサく感じはじめる(笑)。
特にブルーノートやプレスティッジ系の2管、3管編成のアルバムにその傾向が強く、これらのハードバップのオイシイところが一転してダサダサで野暮ったいものに感じ、カッコつけてECMやMPSなどのヨーロッパ系のジャズに傾倒してゆく。
妙にもっさりと重たいハードバップのアンサンブルがヤボったく感じられ、反対にクリアでエッジの立ったジャズに魅了されている自分がカッコいいと思ったりして(本当はカッコ悪いのだが)、そんなスカした自分に酔ったりもする(ああ、カッコ悪い)。
これは、正統派ジャズへの一種の反抗期のようなものなのかもしれないが、たしかにブルーノートの1500番台、4000番台のオーソドックスなハードバップばかりを集中して聴いていると、まったく異質な肌ざわりの音にハッとなるのだろう。
今から考えてみれば、とても滑稽な風景ではあるが、まさにジャッキー・マクリーンの『ジャッキーズ・バッグ』なんかは、そのモッサリと野暮ったく感じるハードバップの典型。しばらく遠ざかっていたアルバムではある。
アポイントメント・イン・ガーナ
特に《アポイントメント・イン・ガーナ》のオープニングのアレンジなんかがその筆頭だった。
メランコリックなスローバラード調の出だしから一点してリズミックなイントロに入る展開なのだが、この流れが見え見え(笑)。
しかも、マッタリさから一転して突入するリズミックなイントロにもキレが感じられず、重たい身体をヨッコラショと起こしているような鈍重さに腹が立った(笑)。
なぜかというと、最初の一音からしてズッコけているから。
リズムと雰囲気がガラリと変わることを告げる最初の1音。これはマクリーンとティナ、そしてベースが同タイミングで発するのだが、この最も大切な最初の一音のタイミングが、ほんの僅かではあるがズレてしまっているのだ。
後にも数回登場するマクリーンとティナの発音タイミングは一致しているにもかかわらず、局面転換を告げるもっとも重要な最初の一音をハズしてしまっているために、後続するアンサンブルの効果も半減してしまっている。
ジャズマンに入念にリハーサルをさせたブルーノートのこと、このアンサンブルの不一致にアルフレッド・ライオンが気づかぬはずがない。
しかし、そのままOKテイクにしたのは、そのあとのマクリーンのソロが快調ゆえ、勢いを大事にしたのだろう。
ハードバップ反抗期
さらに、このアルバムを遠ざけていた理由のもう一つが、某ジャズ喫茶のマスターが、ことあるごとにこのアルバムの《アポイントメント・イン・ガーナ》を紹介していたこと(笑)。
同じような内容の解説を読むたびに「てやんでぃ! そればっかじゃね~か!」と感じていた。
一種の反抗期ですね(笑)。
そんなこともあってか、このアルバムは私の「ハードバップ反抗期」に封印していたもっとも忌むべきアルバムではあった。
しかし、反抗期の子供も、いつしか更生して、まっとうな(凡庸な?)ジャズファンに戻ってくるもの。
まっとうな人間(?)に戻ろうとしたときほど、今までウザったく感じていた親や教師の説教文句が身に染みることもある。
ハードバップ特有の引きずるような粘るリズム、パーカーのようにシャープなキレなど望むべくもないマクリーンのアルトサックスが妙に愛おしく感じてきた。
バラードでアルバムの良さに目覚める
きっかけは、《ア・バラード・フォー・ドール》だった。
なんてことのない3分少々の短いバラード。
いってみれば、《アポイントメント・イン・ガーナ》のイントロの部分だけが曲になってしまったような内容だ。
ソロを取るのはケニー・ドリューのピアノのみ。
ここでのドリューのピアノは、ハードバッピッシュでありながらも、ソニー・クラークやウイントン・ケリーといった「ド・ハードバップ」なピアニストとは明らかに違う瑞々しさとエレガントさが光っており、またコード進行が魅力的なこともあって、ソロの随所にあらわれる分散和音の美しさにハッとなったものだ(今考えると、かなり単純な内容ではあるが)。
メランコリックなテーマを奏でるブルー・ミッチェルのトランペットのバックで伴奏を奏でるティナ・ブルックスのテナーと、マクリーンのアルトサックスの控え目なロングトーンもツボだった。音色が妙に饐えて退廃的なのだ。
前半のテーマのメロディはブルー・ミッチェル。後半のテーマは3管のアンサンブルによって奏でられるこの曲は、要するにマクリーンが前面に出てこない。
もっともマクリーン色の薄い曲が、マクリーンのリーダーアルバムの中でもっともツボに感じたというのも皮肉な話ではあるが、この《ア・バラード・フォー・ドール》をキッカケに少しずつ、このアルバムに対する拒否感が薄れていった。
ティナ・ブルックスとケニー・ドリュー
『ジャッキーズ・バッグ』の中で個人的ベストは、ティナ・ブルックス作曲の《アイル・オブ・ジャヴァ》か。
常に不安定な危なっかしさを内包するマクリーンのアルトサックスと、ホールトーンスケール(全音階)特有の不安定さを効果的に生かしたテーマがベストなマッチングを見せている。
ティナ・ブルックスのソロの一発目の「メリーさんの羊」はベタ過ぎで面白くもなんともないが、テナーサックスでありながらも、アルトサックスの音域を中心に構成されるティナのソロには不思議な切迫感が漂い、曲の持つ気分をうまく引き出している。
この緊張感を受け継ぐケニー・ドリューのピアノソロもなかなか。
まるで名盤『サムシン・エルス』のタイトル曲におけるハンク・ジョーンズのピアノソロにも通ずる、知性とテンションが共存したかのようなピアノソロは、短くはあるが、単なるド・ハードバップとは違う響きを有していて好感触だ。
LPでいえば、B面にあたる《ア・バラード・フォー・ドール》と《アイル・オブ・ジャヴァ》。この後半の2曲がキッカケで私は少しずつ『ジャッキーズ・バッグ』に馴染んでいった。
いまだに、最初の一音のズッコケゆえ、《アポイントメント・イン・ガーナ》のアレンジにグッときたことはないのだけれども、サビの箇所の3管アンサンブルは秀逸だとは思う。
しかし、局面転換のアンサンブルは、もう少し入念にリハーサルをしてほしかったというのが正直、かつ贅沢な感想。
記:2009/07/06
album data
JACKIE'S BAG (Blue Note)
- Jackie McLean
1.Quadrangle
2.Blues Inn
3.Fidel
4.Appointment In Ghana
5.A Ballad For Doll
6.Isle Of Java
7.Street Singer
8.Melonae's Dance
9.Medina
#1,2,3
Jackie McLean (as)
Donald Byrd (tp)
Sonny Clark (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
1959/01/18
#4,5,6,7,8,9
Jackie McLean (as)
Blue Mitchell (tp)
Tina Brooks (ts)
Kenny Drew (p)
Paul Chambers (b)
Art Taylor (ds)
1960/09/01