マイルス『ジャック・ジョンソン』2種類のジャケット
2021/02/24
ジャック・ジョンソンという男
世界初の黒人ヘビー級世界チャンピオン、そして伝説のボクサー、ジャック・ジョンソン。
彼は、その強さと巨額なファイト・マネーにより、何人もの白人女性をはべらせ、車に乗っけてドライヴしたりしていました。
黒人からはヒーロー。
白人からは憎悪の対象。
よく嫉妬に狂った白人から撃ち殺されなかったな~と思います(彼は交通事故で亡くなった)。
特に、先日、映画『デトロイト』を観たばかりなので、そういう余計な心配をしてしまいます。
だって、ジャック・ジョンソンが亡くなった21年後(1967年)のアメリカでも、黒人男性が白人の若い女の子とイチャイチャしているだけで、白人警官から(嫉妬の)怒りを買うぐらいですから。
参考記事:『デトロイト』試写レポート
ブラックヒーロー
デトロイトといえば、そういえば、「デトロイト暴動」が起きた年(1967年)に公開された映画『招かれざる客』でも、白人女性の家族は、黒人青年と結婚することに難色を示していましたね。
たとえ、相手が理性的で物腰穏やか、かつ世界的に有名なお医者さんであっても。
そのような人種差別観が残る1960年代後半ですが、それよりも60年近く前の1908年ですからね、ジャック・ジョンソンが世界ヘビー級のタイトルを手に入れたのは。
もう、白人の観客してみれば「kill the nigger!」だっただろうし、黒人からしてみれば、日ごろの鬱憤を晴らしてくれるカリスマだったのでしょう。
だから、白人のハリウッド女優が愛車のフェラーリに触れようとしたら、「おい、そこのスケ、オレの車にさわってんじゃーねーぜ!汚れちまうだろーが!!」と罵るような、ある意味、逆人種差別者のマイルスにとっては、ジャック・ジョンソンは、めちゃくちゃ憧れのヒーローだったことは想像に難くありません。
未発表音源をテオが編集
だからマイルスは、ジャック・ジョンソンの伝記映画のサウンドトラックの依頼があった時は、2つ返事でOKします。
でも、ツアーに出るため、レコーディングする時間がない。
なので、プロデューサーのテオ・マセロに頼みます。
「スタジオで録り貯めておいた音源を編集して、サウンドトラックを作っておいてくれや」と。
ギャラでもらった2,000ドルの半分の1,000ドルをテオに渡して、「あとはヨロシクッ!」って感じで、マイルスはツアーに出かけちゃったわけです。
で、テオ・マセロといえば、編集の達人。
むしろ、映画の大胆な編集手腕で有名な人だったんですが、音楽の面でも、その才能を遺憾なく発揮していた人なんですね。
特に、エレクトリック時代のマイルスにとっては、彼の編集手腕は欠かせないものになります。
テオ・マセロがいなければ『イン・ア・サイレント・ウェイ』も『ビッチェズ・ブリュー』も、『アット・フィルモア』も無かったかもしれません。
そんな編集の達人であるテオ・マセロは、今までマイルスがスタジオで録音してた数々のセッションの断片を編集して、カッコいい音楽を作ってしまいました。
それが、『ジャック・ジョンソン』に収録されている《ライト・オフ》と《イエスターナウ》なんですね。
帰国後、マイルスはテオが編集した音源を聴いて大いに喜びます。
で、「この写真を使ってくれ」と、自分がトランペットを吹いている姿をテオに渡します。
なんじゃこりゃ~!
しかし、大手レコード会社のこと、背後では様々な動きがあったのでしょう。
発売されたレコードのジャケットは、ジャック・ジョンソンがクラシックカーに乗って、白人女性をはべらせているイラストのものでした。
マイルス、怒り狂います。
「なんじゃ、このジャケットは、おんどれナメとんのかワレ~! クソガキが!」とレコード会社に抗議します。
使う写真(絵)が、表と裏、逆じゃないかっ!とね。
で、マイルスの抗議により、再販プレスからは、マイルスがトランペットを吹いている写真になったわけです。
同じ音源なのに、雰囲気が全然違いますね。
黒いほうが良い
ちなみに、私が所有しているCDは、イラストのほうのバージョンです。
ただし、個人的にはマイルスの写真バージョンのほうがカッコいいと思う。
イラストバージョンのほうは、良く言えば「おおらか」な感じだけど、悪く言えば「間が抜けている」感じがするんですよね。
《ライト・オフ》のカッコ良くグルーヴしているリズムや、ジョン・マクラフリンの「例の」ギターのカッコよさを半減させていると思うんですよね。
逆に、モノクロで汗かいてペットを吹いているマイルスのジャケットは、収録されている演奏が持つカッコ良さを、より一層エキサイティングに引き立ている思うのですが、いかがでしょう。
皆さんはどちらのバージョンがお好きですか?
記:2017/12/13