ヴェリー・スペシャル/大西順子
「音楽家」としての成熟の成果がここに
このアルバムで、われわれが思い描く大西順子のイメージとは異なる側面を垣間見ることが出来るだろう。
どうも私の場合(あるいは多くのジャズファンもそうなのかもしれないが)、鮮烈なデビュー作『WOW!』の印象が強すぎて、あのピアノゴリゴリ、打鍵ゴンゴンな力強いピアノのイメージを、延々と引きずっていたからだ。
>>WOW/大西順子
もちろん本人からしてみれば不本意なことだろう。
『WOW!』や『ヴィレッジ・ヴァンガードの大西順子』で見せた表現は、彼女が持つ表現力の一部を、選曲したナンバーの曲想に合わせて、拡大しただけのものだったからだ。
もちろん、この印象を強く持ち続けていたということは、それだけ彼女の表現力が凄かったことの証でもあるが、だからといって、このガンガン、ゴンゴンが大西順子というピアニストの引き出しの中のすべてではないということは、頭ではわかっていたつもりではあったんだけどね。
たとえば、その後『フラジャイル』では、アコースティックピアノのみならず、エレピなどの電子楽器にもチャレンジしているし、『楽興の時』では秀逸なアレンジ能力もみせつけている。
たしかにキャリアの出発点は、4ビートジャズをメインに奏でるアコースティックなピアノトリオだったのかもしれないが、そこの域にとどまらず、少しずつ表現領域を拡張し、「音楽家」として成長しているのだ。
これは村上春樹と小澤征爾の対談集『小澤征爾さんと、音楽について話をする 』にも詳しいが、一度引退した後、一回こっきりのためにクラシックのオーケストラと共演もしている(もちろん指揮は小澤征爾)。
このように、精力的に表現領域を拡大していくピアニストとしての彼女に対して、もはや、デビュー当時の「ピアノ、ガンガン、ゴンゴン」のイメージばかりをいつまでも引きずっていても仕方がないのだ。いや、それも彼女の大きな魅力なので、もちろん引きずっても良いのだけれど、それ「だけ」を期待すると、異なる類のアルバムが出たときに戸惑うことになる。
それがこれ。
クラシック、アース・ウインド・アンド・ファイヤー、イヴァン・リンス、ミシェル・ルグラン……。
ジャズ的濃度の高い要素を濾して、それでも大西順子の内部に残った「名曲」が大西順子流に料理され、ジャズというよりは、上質なピアノミュージックとして楽しむことが出来る。
ま、ガンガン4ビートジャズを期待して聴き始めた人は肩透かしをくらうかもしれないけど。
関係ないけど、ジャケットのワンちゃんが、ぬいぐるみみたいで、めちゃ可愛いっす。
記:2017/12/05
album data
VERY SPECIAL (SOMETHIN'COOL)
- 大西順子
1.Very Special ~Intro~
2.I Cover The Water Front
3.Lush Life
4.Easy To Love
5.舟歌 (ピアノ曲集『四季』第6曲より)
6.柳の歌 (オペラ『柳の歌』第4幕より)
7.Comecar De Novo (The Island)
8.A Flower Is A Lovesome Thing
9.How Do You Keep The Music Playing
10.After The Love Has Gone
11.Very Special ~Outro~
大西順子 (piano,electric piano #5,9)
馬場孝喜 (guitar) #2,4,7,9,10
Jose James (vocal) #3,8
森卓也 (clarinet) #6
佐藤芳恵 (bass clarinet) #6
井上陽介 (bass) #11
高橋信之介 (Cymbal)#1
挾間美帆 (arrange,conduct) #6