ジャズ超名盤研究2/小川隆夫

      2021/02/11

丁寧解説本

小川隆夫氏の新刊が出ました。

『ジャズ超名盤研究2』。

『1』から引き続き、さまざまな角度から丁寧に解説している本です。

『1』のレビューにも書きましたが、まさに豪華版ライナーノーツ。

>>親切なライナーノーツとして読めばジャズをもっと楽しめる!小川隆夫・著『ジャズ超名盤研究』

そのかなり丁寧とはどういうことかというと。

ジャズマンのプロフィールが一人ずつ紹介されている

アルバムの内容のみならず、参加しているジャズマンのプロフィールもすべて一人ひとり紹介されているところがありがたいですね。

あれ? こういう人も参加していたっけ?と意外な発見があったりと、自分の思い込みや認識違いを正してくれたりもします。

ただ、やっぱり謎なミュージシャンは、小川さんのリサーチ力をもってしてもプロフィール、わからないんですね~。
ま、仕方ないんことなんだけど。

たとえば、モンクの『ジニアス・オブ・モダン・ミュージック』に参加しているベーシスト、ボブ・ペイジについて詳しく知りたかったんだけど、やっぱり謎は謎のままでした。ま、マニアックすぎる好奇心なので、多くの人は知らなくても、というかそもそも知りたい!っていう人は、日本で100人もいないでしょうから。

1曲ごとに曲解説

また、アルバムに収録された曲も1曲ずつ解説されています。

基本的には出展だったり演奏内容が主で、ま、これはアルバムのライナーノーツの後半によく書かれている曲ごとの解説のような内容ですね。

今回はソニー・ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』収録の《ストライヴァーズ・ロウ》の基となるコード進行の曲はちゃんと《コンファメーション》であると解説されているし(笑)。

コラム

関係者のインタビューやジャズマンに関する逸話のコラムなど、過去の膨大な取材内容から読者の興味をそそる内容をコラムとして掲載しています。だから、単なるデータ本のみならず、読み物としても面白く読める内容になっているのです。

ボリューム大の図鑑や辞書のように

アルバムによっては、参加ミュージシャンの人数が多かったり、収録曲が多かったりする場合もあるので、その場合は1枚のアルバム紹介にもかなりのボリュームになるわけで、自然、ページ数がボリューミーに。だから、読みごたえタップリなのです。

これを読みながら聴いてみたいアルバムを探すも良し、すでに聴いているアルバムの解説を読んで、「なるほど、そうだったんだ!」と鑑賞を深めるのも良し。

ま、個人的には、一度耳を通した上で読んだほうが、この本を楽しめると思います。

ジャズ評論家の原田和典氏や、オーディオエッセイストの寺島靖国氏の思い入れたっぷりの熱い文体とは異なり、小川氏のテキストはいつもクールというか、淡々としています。個人的には前者の方々の文体やテイストのほうが「読み物」としては好みですが、必要以上の思い入れや過度な修辞は、このようなデータ色の強い本には不要なのかもしれません。むしろ、フラットな文体の小川氏のテキストのほうが、資料として、必要な時にその都度、その都度、何度も紐解く回数が増えるのではないかと思います。

もちろん、読み物としても楽しめますが、データ本としても辞書や図鑑のようにレコードやCD、オーディオ機器の近くに置いておきたい本です。

特に、表紙カバーを外すと、デスノートのように真っ黒な装丁が、高級感が出ているため、違和感なく溶け込むのではないかと思います。

気がついたこと・気になったこと

さて、蛇足ではあるのですが、気がついたことや気になったことをいくつか列記してみます。

シンバル? カウベル?

バド・パウエルのブルーノート『アメイジング』vol.1、2を紹介している章のP35です。

《ウン・ポコ・ローコ》の曲解説の中、「チンチキ・チンチキとシンバルを打ち鳴らすローチのドラミングが~」と書かれていますが、これはシンバルではなくてカウベルなのではないかと思います。もしかしたら、カウベルのような音色を奏でる特殊なシンバルが当時存在し、それを叩いているという表現なのかもしれませんが……。

関連記事:ジ・アメイジング・バド・パウエル vol.1/バド・パウエル

プロフィール⇒ギタリスト?

小川隆夫氏は、以前は「ジャズライター」、最近ですと「ジャズ・ジャーナリスト」という肩書きをメインに使われていましたが、本書の奥付けを見ると、「ジャズ・ジャーナリスト」に加えて「ギタリスト」という肩書きが追加されています。

高校時代にギターを弾いていたということは、色々な著作で拝見していましたが(たしか『ゲッツ/ジルベルト』に影響されて)、最近は本格的にミュージシャンとしてデビューされたのでしょうか?

だとすると、整形外科医をやっておられながら、大量のジャズ評論を書き、さらにミュージシャンまでやってのけるという、凄まじいマルチっぷりだと思います。

ジャズ評論の一点においてのみでも、その著作ペースの速さには目を見張るものがある小川氏。きっと、時間の使い方がものすごく上手なんでしょうね。

表記

今回読みながら、いくつか今まで読んだり書いてきたりした表記の中で、いくつか今まで見慣れたものとは違う表記のものがいくつかあったので、メモメモしてみます。

もちろん、表記に関しては(特に外国語を日本語表記で記す際は)、これが絶対正解というものはなく、たとえば昔はマイルス・デイビスだったのが、今ではマイルス・デイヴィスという表記が一般的なように、時代とともに微妙に変化しますし、それが当然の流れだとも考えています。なので、揚げ足取りというような意図はまったくなく、むしろ「へぇ、そうなんだ、自分も今後はそう表記しようかな?」と思わせるものもいくつかあったので、忘れないためのメモです。

ドラムソロ⇒ドラムス・ソロ

私の場合、「・」(なかぐろ)は無しで書いていることが多かったような気がします。また、「ドラムス」ではなく、「ドラム」と書いていることも多かったです。しかし、よくよく考えてみると、ドラムセットって、複数の打楽器が集まっているので、性格には「s」をつけた複数形のほうが正しいわけです。また、「ドラムソロ」は、「ドラム」と「ソロ」という2つの単語がくっついてひとつの言葉になっていることからも、「・」は入れたほうが良いのかなと思いました。

ピッチカート⇒ピッチカット

ヴァイオリンやチェロ、そしてコントラバス(ウッドベース)などの弦楽器を指ではじく奏法をピッチカートと呼びます。一般的には、特にジャズ評論などでは「ピッチカート」と表記されるほうが多く、そちらの表記のほうを見慣れていることもあるためか、「ピッチカット」という表記は妙に新鮮でした。

カフェモンマルトル⇒モンマルトル・ジャズハウス

セシル・テイラーのアルバムなどのタイトルなど、デンマークのコペンハーゲンにある老舗ライヴハウスの表記は「カフェモンマルトル」となっていましたが、本書では「モンマルトル・ジャズハウス」に統一されています。

正式名称は「モンマルトル・ジャズハウス」で、通称「カフェモンマルトル」を呼ばれていたのかな?

今後も、このライヴハウスで行われたライヴのアルバムのことを書くこともあると思いますが、ま、その際は、このサイトのタイトルも「カフェモンマルトル」ということもあり、「カフェモンマルトル」で通したいのですが、あるいは「カフェモンマルトル(モンマルトル・ジャズハウス)」という表記にしようか検討してみることにしましょう。

記:2019/03/08

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